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人とは思えない真紅の瞳。伸びた襟足をひとつに結んだ、男には珍しい髪型。顔を隠すように垂れる横髪と、その内側に覗く瞳と同じ、赤。
潤はその姿に、確かな見覚えがあった。
『私、魂回収課の更生担当、御影航と申します』
肌が総毛立ち、溢れる記憶のままに声が出る。
「あんた昨日の……!」
ガタンッと椅子が倒れ、教室が水を打ったように静まり返った。航ひとり、満足そうに微笑む。
「うん、どうやら目は覚めて」
「ちょっと来い……!」
「えっ?え、あ、ちょ……っ」
安心したような男の腕を引っ掴み、立ち上がるのも待たずに歩き出す。教室は不思議なことに、何もなかったとばかり騒がしさを取り戻していた。
ここにいるはずのない男への不審感もなく、いつも教室の隅で俯いている潤の行動を訝しむ声もない。
明らかに、なにかがおかしかった。
「潤、まえ」
「え──」
人のかたまりと机を避けながらもその異常さに顔をしかめていた潤が、航の忠告も意味なく、真正面から何かにぶつかる。ぶっ、と漫画のように言葉を詰まらせ、衝撃音だけが重く響いた。
「ご、ごめんっ。大丈夫?」
打たれた頬まで響く鈍い痛みに、潤は声を上げることもなく顔を歪める。何してんだよと揶揄する複数の声と、頭の上で揺れ惑う慌てた声には、なんとなく覚えがあった。
確か、同じクラスの中心にいるやつらの声だ。
「け、怪我とかは」
「……、いい。してない」
「えっ?あ、でも」
「いいから。邪魔、どいて」
じんじん痛む鼻から頬を手で押さえ、潤は乱暴に男を押しやる。が、男はびくりともしなくて、結局、男自ら潤の進路を開けてくれた。なんとなく悔しい。
子供みたいにふん、と顔を背けて歩き出した潤に、
「ホント、あいつ感じ悪いよな」
否定のしようもない悪評が降りかかった。反射的に止めそうになった足を堪え、前へ1歩踏み出す。
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