霊媒

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その週の日曜日の夕方ごろ、夫も立ち会いのもとで祈祷が行われた。 リビングの片隅に小さな祭壇が設えられ、北畑さんはその前に座り線香に火をつけた。 その少し後ろに廣川夫妻が並んで座る。 北畑さんは暫し沈黙したあと、朗々と祝詞らしきものを誦し始めた。 この後の話は彼女が夫から聞いた事がもとになっている。 何故なら廣川さんは祈祷が始まってしばらくした後の記憶が無いのだ。 夫の話では祝詞が唱えられたあたりから、無言で座っていた廣川さんの身体がぶるぶると震え始めたというのだ。 夫は心配になり廣川さんの肩を揺すって呼びかけたが全然答えないという。 やがて廣川さんはううぅっ、と低く唸り声をあげた。 夫は驚いて北畑さんの肩を叩いた。 北畑さんは慌てる様子もなく、夫に廣川さんを支えているように指示すると再び祭壇の方に向き直り祝詞を唱え続ける。
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