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やがて祈祷が終わりを告げると同時に廣川さんは獣のような咆哮をあげて、床にどっと倒れこんだ。
夫は慌てて妻を介抱する。
救急車でも呼ぼうかと思ったらしいが、廣川さんはすぐに目を覚ましたという。
ここからは彼女自身も記憶がある。
何故か目を覚ました時、このところずっと感じていた体の異様な重さが消えていた。
「終わりましたよ」
北畑さんが微笑んでそう言ったので夫妻は何となく安心した。
妙なことにリビングの中に、何か獣のような匂いが漂っていたという。
この家ではペット類は飼っていない。
「あれはもう逃げて行ったよ」
どうも廣川さんに憑いていた何かを追い払ったという事らしい。
北畑さんの見立てでは、廣川さんに強い怨みを持っている誰かが呪詛をかけた事が原因のようだ。
「私のことを怨んでいる人間って誰なんですか?」
廣川さんは当然の疑問を口にした。
「知らない方がいいよ」
北畑さんは、その人間が誰なのかについては答えようとしなかった。
しかし廣川さんはどうしても知りたいと頼み込んだ。
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