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気がつけば時計は午後五時を回っていた。
後日再び連絡を取り合う事を約束し、私は屋敷を辞する事にした。
丁重にお礼を言って玄関を出た。
傾きかけた西陽が周囲を赤く染めていた。
大分暑さが和らぎ、木々の間からひぐらしの鳴き声がこだましている。
門を潜る時、ふと後ろを振り返った。
屋敷の二階の外廊下の窓から、誰かが私を見下ろしていた。
女性だった。
かなり若い。
ガラスに陽光が反射して、はっきりとは見えないが背は高く細っそりとした輪郭の顔が私に向けられている。
私は小さく会釈したが、女に反応は無かった。
十九歳になる長女がいる。
たしか静恵さんが言っていた。
きっと彼女の事だろう。
私はそう解釈して、丑蔓家を後にした。
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