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「つめたーーーーっ!!」
男が目を覚ましたことに、少女はホッと息をついた。
「あぁ、よかった!!」
「よかったじゃねーよ!!何するんだ!!」
水をかられた男はたまったもんじゃないとばかりに文句を言った。
「おまえさぁ、人が死にそうになってるのに、フツーあんな勢いで水かけるか?
傷にもすげぇしみるし、今度こそ死んでしまうだろ!」
「すみませんっ!
でも、私ひとりじゃ抱えきれないし、お寺にいる和尚様も膝が悪くてお願いできないし・・・。
あなたが起きてお寺まで歩いてもらうしか、助ける方法が見つからなかったんですもの!」
葉羽は、その男が文句を言えるほど元気なんだと思うとニコッと笑顔を見せた。
その愛らしい少女の顔を見ると、不思議とその男の怒りは緩和され、仕方なく身を任せてみることにした。
「それで、お嬢さん。俺を助けてくれるんでしょ?どうすればいいの?」
男の体は痩せこけボロボロだった。ブルブルと両手を震わせながら、やっとのことで上体を起こし、近くにあった太い樹に寄り掛かりながらなんとか起き上がる。
その身長は180センチは超えているだろうか、葉羽からすると見上げるほどに大きかった。
しかし彼女はその大きさに少しも動じることはなく、さらに男に指示をした。
「えーっと、ここから3分ほど歩いたところにお寺があります。
そこまで頑張って歩いてください!!」
「はぁ?さっきのおまえのセリフ、聞き間違いかと思ったが・・・。
こんな傷だらけの俺を見てもやはり、この坂を上れというのか・・・。
おまえ、実はこの辺りの鬼の娘だな。くくっ、おもしれー!」
男は少しも労わってくれないその少女に、笑うことしかできなかった。
「おい、おまえの肩を貸せ。約束通り3分しか歩かねぇからな!!
そのあとは、俺が目を覚ますまでしっかり看病しろよ!!」
男は小さな少女の肩に腕を回し、気力だけで一歩一歩、寺までの坂道を歩き出した。
葉羽はその細い体で大男をしっかり支え、古寺まで誘導する。
そして寺に着くとすぐに、男は意識を失い再び倒れてしまった・・・。
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