お月さまとあるこう

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 ……え?  わたしはちょっとびっくりした。なんで? お月さま、わたしについてきていたよ?  それをマユミに言うと、マユミもすんごいびっくりしてた。マユミのほうにも、ちゃんとお月さまついてきてたよって言った。  なんで、どっちにもついてきてるの? どうやったらそんなことができるの?  わかんなくなって、お空を見た。真っ黒な夜のお空の中で、やっぱりにこにこわらってるお月さま。どーしてどっちにもついてこれるのかな。 「ミキ! マユミちゃん!」  いきなり、そんな声が聞こえて、ちょっとびっくりした。  パパだ! 「パパ!」 「やっぱり一緒にいたんだな。早く帰って来いって言っただろ!」  パパはちょっとおこりながら、道の向こうからこっちにきた。  でも、そんなことより、早くパパに聞きたかった。  マユミとなんではなれなきゃいけないの、ってことと、あともういっこふえてた。  お月さまは、どうしてどっちにもついてくるの? って。 「ねぇねぇ、パパ! パパ! しつもん!」 「あ? まーたでたな、ミキのお得意の『なんで』が。なんだい?」  パパはちょっとだけ笑いながら、わたしたちの目の高さまでしゃがんでくれた。わたしは、マユミとちょっとだけ目をあわせて、 「あのね。マユミがとおくいっちゃうって、いったの」 「……ああ、杉山さんから聞いたんだな」  杉山さんって、マユミの名字。パパが言うときは、マユミのお母さんのことだ。 「うん。なんでとおくにいかなきゃいけないの? わたし、マユミとはなれるのやだ!」 「マユミもやだ!」  そう言ったら、パパ、ちょっとだけこまった顔した。  いつもなんだか下がっているまゆげを、もっと下げて、こまったなぁってお空を見上げた。 「んー。たしかに、やだよな」 「やだ!」 「でもな。遠くには行くけど、離れるわけじゃないんだよ?」 「……え?」  わかんなくって、きょとんってしたら、パパはわらって頭をぐしゃぐしゃしてくれた。 「ミキも、マユミちゃんも、ちゃーんとお互いのことを思いあっていられたら、離れることはないんだよ。遠くに行っても、そばにいるのと同じ、繋がっていられるんだ」  ……パパは時々、すっごくむずかしいことを言う。  たぶん、わたし、そう思ったこと顔に出しちゃったんだと思う。パパはまたちょっとこまったみたいに笑った。 「遠くに行くのは、杉山さんが幸せになるためなんだ。お母さんが笑ってるほうが、マユミちゃんもいいだろう?」  マユミが、ちょっとだけ考えるみたいにしてから、うなずいた。 「マユミ、おかあさんわらってるほうがいい」 「そうだね。だから、遠くに行くのは寂しいけれど、我慢出来るかな?」 「……ミキとはなれたくない」  マユミが、またぐずぐず泣きだした。どうしよう。  けど、パパがいるからだいじょうぶだった。パパはぽんぽんってマユミの頭をちょっとだけたたいて、 「離れないって言っただろ? 離れない。だいじょうぶだよ」  って言った。  それから、うーんってうなった。 「どう言えば……あ!」 「え、なに、パパ?」 「お月様だよ! そう、お月様!」  パパが、思いついた! って顔で笑った。  お月さま?  パパは、お月さまをゆびさして、 「ミキ、知ってるか? お月様ってな、すっごく遠いところにあるだろう?」 「しってるよ!」 「マユミもしってるよ!」  マユミと二人で、ウンって言ったら、パパはにって笑った。 「じゃあ、これは知ってるか? お月様ってな、ついてくるんだぞ」  ……あ! 「パパもしってるの? パパにもついてくるの!?」 「あれ、何だ知ってたのか」 「さっき、マユミとやったの! マユミとわたし、はんたいに歩いたのに、りょうほうについてきたんだよ!」 「ついてきたんだよ!」  ぴょんぴょんとびながら、そう言った。パパはうれしそうに笑った。 「そっか、じゃあ話は早い」  パパは、ぴってお月さまにおかあさんゆびを向けた。 「お月様は、遠いところにある。でも、お月様はいつだってそばについてくる。それはなーんでだ。はい、ミキ!」  うわあ、パパってばせんせいみたいだ! どうしよう! 「えと、えっと。ええっと」 「ぶぶー。時間切れ」 「えー!」  パパってば、早い! ずるい!  マユミ、笑ってる。自分じゃ答えられないくせに!  ぷってほっぺふくらませたら、パパはまた笑った。まゆげが、ふにゃんって思いっきり下がる。 「正解は、ミキがお月様をちゃんと見てたからだ。マユミちゃんもね。もちろん、パパもそうだ」  パパは、マユミとわたしの頭を、いっしょになでた。 「ちゃんとお月様を見てたから、お月様は遠いところにあるけれど、ずっとそばにいてくれたんだ。それとおんなじだよ」  パパは、マユミとわたしを交代交代に見ながら、笑った。 「ミキが、ちゃんとマユミちゃんのことをずっと思っていられたら、どんなに遠くてもそばにいられる。マユミちゃんもね、ずっとミキのことを好きだって思っていられたら、どんなに遠くに行っちゃっても、心はミキのそばにいられるんだよ」  お月さまみたいにね。  パパはそう言って、もう一度お月さまをゆびさした。  お月さまはやっぱり、にこにこわらってた。  ……あれ? もしかして、さっきわらってたのも、このことを知ってたからなのかな。  はなれててもそばにいるって、知ってたからなのかな。 「ミキも、マユミちゃんも。ちゃんと思っていられるよね?」  パパはそう言って、マユミの手とわたしの手をつながせた。  わたしとマユミは目を合わせて、それから、お月さまを見上げて、二人でどうじにこくんって大きく頭をたてにふった。  マユミのことは、ちゃんといつだって思っていられるよ。  それから、マユミと、パパと、わたしと、三人で手をつないでマユミの家まで歩いていった。  お月さまをみながら、歩いていった。  お月さまは、ちゃんとずーっとそばについてきてくれた。  ずっとずっととおくにあるのに、ずっとそばにいてくれた。  ありがとう、お月さま。  マユミの家についたら、マユミのおかあさんがぎゅうってマユミをだきしめた。  マユミ、泣いてた。ごめんなさいって泣いてた。  マユミのおかあさんは、ミキちゃんとはなれることになってごめんねって言ったけど、マユミもわたしも、ちがうんだよって教えてあげた。  お月さまとおんなじで、そばにいられるんだよ、って教えてあげた。  そうしたら、マユミのおかあさんちょっとびっくりした顔して、それからそうだねって笑ったんだ。  マユミの家から、今度はわたしのおうちにかえる。パパとふたりで、手をつないで。  お月さまといっしょに歩いた。 「ねぇ、パパ」 「なんだ?」 「お月さま、ついてくるよ」 「ついてくるな」 「ずっとそばにいてくれるね」 「ずっとそばにいてくれるな」 「マユミもいっしょだよね?」 「ああ、いっしょだ」  わたしはちょっとうれしくなって、スキップした。  やっぱり、パパは何でも知っている。  お月さまも、いっしょにスキップしてた。お空の上で、ぴょんぴょんしてた。  パパと、お月さまと、いっしょに歩いた。  だいじょうぶ、お月さま、ちゃんとそばにいてくれるから。  だからきっと、マユミとも、ずっとそばにいられるよね。  真っ黒なお空に、黄色いお月さまがぽっかりうかんでた。  にこちゃんマークみたいにわらってた。  にこにこしながら、ずっとそばにいてくれた。  ありがとう、お月さま。  だいすき!
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