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「だって、おかあさんが悪いんだもん」
それは、いつものマユミのくちぐせ。
いつもそう。すぐそうやって、すねる。わたしとケンカしても、いっつも言う。だって、ミキが悪いんだもん。って。マユミのほうが悪いくせに。
「そんなこと言ってたって、ここにずっといらんないよ」
ぎーぃ、ぎーぃ、ってきたない音で、ブランコがなる。この公園のブランコは、もうずいぶんくたびれてるな、ってパパが言ってた。そう言ってたパパの横で、ママは、パパとおんなじねって笑ってたけど。
マユミは、となりのブランコをぎーぃぎーぃ言わせながら、足でずるずる砂をけってた。すねてるんだ。いっこ下だけど、マユミはまだまだお子さまだね。
わたしは、マユミよりいっこ上。春になったら三年生になるから、マユミよりはずっとお姉さんだ。だから、ちゃんとマユミのこと見てやらなきゃいけないって、パパは言ってる。
「早く帰ろうよ。マユミのおかあさん、しんぱいしてるよ」
「してないよ。おかあさん、マユミのこときらいだもん」
すぐこれだ。
マユミは、みつあみをブランコと一緒にぶらぶらさせて、足で砂をずっとけってる。
ハト公園は、明かりが一本だけしかないから、くらい。
今、何時だっけ。たしかマユミのおかあさんからデンワもらったのが八時だったから、もう三十分くらいはいるはず。八時半? 夜おそくなってきた。だからちょっとねむい。
マユミがおかあさんとケンカしたって。それで、おうちとびだしちゃったって。ミキちゃんとこにきていない? って言われた。きてないよって答えた。きてなかったし。
でも、わたしはすぐにマユミがどこにいるかはわかった。マユミのおかあさんより、マユミのこと知ってるんだ。
ここだって思った。だってマユミ、この公園好きだから。
だから、パパにわがまま言って夜にちょっとだけ外に出してもらった。マユミをさがしにきたの。やっぱり、ここにいた。
マユミはひとりで泣きながらブランコこいでた。わたしのかおを見ると、ぐしぐしっ、てなみだふいた。
今はすっかり泣き止んだけど、そのかわりすねた。お子さま。
「マユミ、帰ろうよ。さむいよ」
「ミキがひとりでかえればいいでしょ!」
……すぐこれだ。
わたしは、ふうってため息ついた。パパがよくやってるのと同じ。それから、ブランコに立って、こぎはじめた。
ひざをまげて、のばす。ひざをまげて、のばす。
ぐん、ぐん、ぐん、ってちょっとずつ高くなっていく。となりでマユミが見上げている。マユミは、ひとりでの立ちこぎはまだできないんだ。だから、うらやましいんだと思う。
ぐーんっ。ぐーんっ。って地面が近くなったり、とおくなったりした。
ぎーいっ、ぎーいっ。
ブランコがうるさくないた。
かおを上げたら、すごいなぁって思った。
真っ暗なお空が、近づいてくるみたいだったんだ。
あと、それから、まんまるのお月さまも。
わたしはちょっとだけうれしくなって、もっともっとっていっぱいこいだ。ぎーいっ、ぎーいっ。
「ミキ、ミキ、マユミもやる!」
けど、いっぱいこいでたら、下でマユミが手をふって止めた。
しょうがないから、止まってあげる。わたしのほうが、お姉さんだもんね。
こんどは、マユミがすわって、わたしがマユミのうしろに立った。ふたりこぎ。これ、しちゃいけないって先生が言ってたけど、いつもやってる。
さいしょはマユミが足でうしろまでブランコをひっぱった。
たんっ! ってマユミが地面をけった。
えいっ!
わたしは、それにあわせて力いっぱいひざをまげた。けっこう、力いるんだよ、これ。
いっしょうけんめい、こいだ。
ぐーん。ぐーん。ぐーん!
どんどん高くなる。くつとばしたら、とおくまでいきそう。しないけどね。
「あ。おつきさま!」
マユミが、うれしそうにいった。
「おっきいね!」
「うん!」
あ。マユミわらってる。今日、はじめてだ。
わたしも、なんだかうれしくなって、もっともっといっぱいこいだ。
おっきいお月さまは、真ん丸くって、きらきらしてた。
きなこもちみたいだね。それともあれかな、にこちゃんマーク。さなえちゃんのふで箱についてたあのマークみたい。お月さまもわらってる。
「あのね、ミキ」
「なあにー?」
「お月さまって、ずっとずーっととおくにあるんだよね」
「うん。そうだよ!」
ブランコこぎながらお話するのは、ちょっとだけしんどい。
でもマユミは、それでもはなしてきた。
「あのね。マユミね、とおくにいっちゃうの。おかあさんと、それでケンカしたの。ミキと、もうあえなくなっちゃうの」
すこしだけ、マユミが何を言ったのかわかんなかった。
ちょっとしてからわかったら、ひざの力がぬけちゃって、ブランコをこげなくなった。
ブランコと、わたしと、マユミは、お月さまからとおのいた。
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