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思ったよりも低くて、しかし男とは違う高さを持っていて、それが妙に甘ったるかった。その声色は、例えるなら遊女のように男に慣れ、誘惑するかと思うほど粘り気がある。言うまでもなく、刺激された。全身が、痺れるように疼いた。
俺は冷静になり、どうすれば女の近くに居れるか真剣に考える。その姿は、女を口説くようだった。
「お前、家はどこだ。送っていってやるから案内してくれ」
すかさず女の前へ体を滑り込ませると、口実を無理矢理作る。見知らぬ女に声をかけたのは初めてではなかったが、自分の声が少し震えていたので不思議だった。しかし不自然にはならなかったと、自分で思い込んでる。
ゆっくりだが、傘を差し出されても歩き続けていた女はぴたりと止まる。大粒の雨が、だらだらと俺の首筋を、背中を、駆け抜ける。しかし、いくら待っても返事はない。禁忌に触れたように、女は反応せず、ただ下を向くだけである。
脈無し、か。と、ため息を短く漏らす。仕方ないので女の容姿を舐め回すかのように、見つめる。ほっそりとした顔に相反する、ふっくらとした弾力のありそうな唇。目は切れ長で、しかしくっきりとした二重まぶたと長い睫毛により、強調される。その顔立ちと、落ち着いた様子から、俺と同じ二十代後半か。と、勝手に決めつける。身につけているものをみると、鞄も持たず、財布も持たずだった。
「ちょっと、ついてこい」
俺の声は、激しく降り続ける雨にかき消されて聞こえているのかよく分からなかった。が、女は浅く頷くように、一度上げた顔を時がゆっくり流れるように下へと傾けた。雨は先ほどより、強くなった気がした。
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