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何度か俺の肩と、女の頭が触れ合う。その度に女は、下唇を噛むように顔を歪ませると、俺との距離をおく。だけど雨が女の肩をかすめると、慌てて俺との距離を縮めてくる。ふわりと、雨の匂いが混じったシャンプーの香りが辺りを包む。
そんなことをやっていると、俺の住んでいるマンションに着く頃には、二人とも雨男雨女のようにびしょ濡れになっていた。足の長さの違う、女の歩幅に合わせるのは思ったよりも簡単で、むしろ女が大股で歩いているかの様に感じた。
「風呂沸かすから、入ってこい。女物の服はねぇから、俺ので我慢してくれ」
乱暴に俺の服と、大きめのバスタオルを投げると、ソファーの上に大きく座った。しかし、いつまでたっても女は動かないので、風呂はあっちだぞ、と声をかける。それでも動く気配がないので、女の手を引っ張ろうとする。
「あなたは、どうするの」
女の隣に立つと、聞こえた声。予想外で、目を見開いてしまう。また、やっと会話らしい言葉を聞けて、ふっと安堵の笑みを浮かべてしまう。それが何故か納まらなくて、はっ、はっと短く言葉を吐き出した。俺に興味がないと思っていた奴からの、心配の言葉は思いのほか表情を緩ませ、笑いを誘わせる。
女が不思議そうな顔で首をかしげると、それが可笑しくて、薄ら笑いで留めるはずだったが、やはり笑みが溢れてしまう。
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