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シルバーマウンテンは太持に近づく。
荒い息遣い。それは興奮、そして今の状況を堪能している証拠。
太持のケロイド状の皮膚に黒い何かが波打つように浮き出、そして消えた。
太持を殺すつもりでシルバーマウンテンはこの場に立っている。そうせよとの命を受けている。何故キルスイッチとなったのか。キルスイッチである自分の存在理由を示すのだと脳内に響いている。
殺せ!
殺していいのか?
太持とは殺人犯である。
自分の家族を惨殺し、あまつさえ家に火を放った凶悪犯だ。
制裁するのだ、処理するのだ、
キルスイッチとは正義の存在か?
武器らしい武器など持たないシルバーマウンテンは、ひたすら首を絞め続けた。自発呼吸はあるが昏睡状態の標的、その見知らぬ顔が、視界の悪いシルバーマウンテンに、ぼんやり見えている。
見知らぬ、顔。
しかし何かが引っ掛かる。その何かが何であるのかがわからない。漠然とした違和感、「違和感とも違う」荒い呼吸を繰り返し、弓子は呟く。
泥太宮、その姓に記憶はない。
たもつ、その名には記憶がある。
たもつ、ありふれた名前だ。
「たもつ、たもつ、たもつ、」
大きくなったら弓子先生と結婚するっ
「太持、くん?」
太持は泣いていた。
歪めた戸がこじ開けられようとしている。
涙。
シルバーマウンテンの内側の更に内側に在った古い記憶が刺激される。
守らなければ。
シルバーマウンテンは太持を抱き抱え、窓から飛び降りた。超人的な力が発揮できるとは云え、基本は只の人間だ。人ひとりを抱えて窓から飛び降り、無事で済むわけもない。
シルバーマウンテンは呻き声を上げ、足を引き摺りながら指定された場所まで向かった。
汗が目に入る。
息が苦しい、気を失いそうだ。
女、そしてゴム男シンリジィが居た。
「やっぱりダメだったか」
空には黒雲。
「シルバーマウンテン、俺はそいつを殺せと命じた筈だ」
シルバーマウンテンは首を振った。
何故殺さずに連れてきてしまったのか、当人にも説明が出来ない。
「使えない、ほんとゴミ」
吐き捨てるようにそう云って、女は立ち去った。
ごめんなさいごめんなさいと、見た目だけは場違いに剽軽なキャラクターは、その見た目とは違う物腰で平身低頭して見せた。滑稽を通り越して惨めな様だ。
「期待はしてなかったけどよ」
大きな溜め息を落とし、シンリジィも立ち去った。
赦されたのでは当然ない、捨て置かれたと云うのが近い。
汚い路地裏。
シルバーマウンテンの狭い視界の先に、死神のごとき男が立っていた。
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