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 横転した救急車の真横に、黒を基調としたゴシックロリータスタイルのメイドがパラソルを広げ姿勢良く立っていた。  キルスイッチ、プリティメイズ。弓手に引き摺っているのはモーターヘッド、だった物。四ツ葉吉晴の死体。  急ぎ駆け付けたロキ。その後ろに涼花が続く。 「あなたたちマスコミは、奴等をキルスイッチと一括りにしているが、あいつらに仲間意識は希薄だ」  プリティメイズは挑みかかる獣のような目で二人を見つめている。 「これ以上は危険だ、下がって」  涼花は素直に従った。  構えるロキ。独特の呼吸法で神経を集中させる。  大気から、或いは地中に存在する元素を身体に引き寄せる。  秒も要らない。  ロキの肉体はチタンの装甲に包まれた。  色白の綺麗な顔に黒い口紅が目を引く。プリティメイズは先の尖ったパラソルを構えた。体格は華奢で、細面。いい女に見えなくもない。  プリティメイズは一足でブラックタイドとの間合いを詰め、パラソルの突端を突き出した。目、喉元、心臓、次々狙う。殺す気だ。 「どうして破壊を繰り返すっ。欲を欲のまま在るならば、動物と変わりないッ」 「欲に忠実で何が悪い!」  法も情も糞もない、生きるだけ。 「変態ならば隠せ!」 「お前も正義を振りかざしたい我欲にまみれた俗物だ!」 「一緒にするなッ!」  激昂したブラックタイドは右手の甲から切っ先鋭い刺突剣を突き出すと、滅多矢鱈に突きを繰り出した。 「快楽で街を壊し、人を殺し、そんなものと一緒であるものか!」  プリティメイズは笑う、嘲笑う。 「正義なんて絶対的な価値観じゃない。時代によって違う、国によって違う、人によって違う。あんたはなにを基準に自分の正義を築いた? 社会通念か、それとも法律か? 法律のわけがないなっ、警察でもないあんたのやっていることはただの暴行。認めろ同類なんだ! 俺たちは街を壊す、あんたは俺たちを壊す。法に照らせば両方とも犯罪者だ」 「違う。俺には信念がある」 「その信念は正しいのか?」  雨。  プリティメイズはパラソルを広げた。 「正しい、当然だ!」 「正しいと思い込んだ先の暴力が、一番たちが悪いと俺は思うね」  雨は嫌いだ、メイクが落ちる。女を装うこと、それがプリティメイズを形作っているすべて。それが崩れてしまっては彼は立ち行かなくなる。  プリティメイズは立ち去った。 「真島さん」  再び変身を解いたロキは、新聞記者の名を呼んだ。 「発表したいことがある」  当然の申し出に涼花は大いに戸惑い、許諾した。  微熱に尻を撫でられるようにふわふわと動き、ロキの奉職している大学内の一室を会見場を設定し、日時を決め、マスコミ各社に通知した。  当日は新聞や週刊誌、テレビ局の記者が二、三十人ほど集った。  定刻五分前に現れた武郷ロキは、集まった記者の顔一つ一つ見回し、やがてキルスイッチの脅威を説いた。 「今現在、キルスイッチに対抗している警察には装備が不足している。私は、私の研究でその脅威に対抗できうる装備の開発に成功した。今まで私は個人的にその力を使いキルスイッチ撲滅を目指してきたが、何処からやってくるのかわからず、その目的も定かではない敵に、個人の力では限界があると思い知り、今日のこの場を借り、技術提供の意思を明確にしたいと思った所存です」  当然集まったマスコミから声が飛ぶ、その力とは。 「力とはッ」  ロキはブラックタイドに変身した。  一斉にフラッシュが焚かれる。  今後は警察と連携を取りキルスイッチに対抗していく、つもりだった。  ドアが乱暴に開き、警官が雪崩れ込んできた。 「武郷ロキ、逮捕する!」
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