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 ふらふらと歩く面相の悪い男。ぼろぼろの服、左胸に大きな傷痕。異様だ。 「あんた大丈夫か?」  面相の悪い男は声を掛けた男を見る。 「大丈夫だ」  焦げた臭い、聞き取り難い声。 「服買えよ、風邪引くぞ」 「生憎夢から覚めて金がない」  声を掛けた男はどうやらホームレスのようだ。半裸で徘徊する珍奇な男を呼び止め、何のことはない暇潰しをしようとしている。 「どんな夢だ?」 「初恋」 「へへえ、そりゃまた随分」  俺の初恋は別れた女房だがなと、ホームレスは鼻水を啜るように云った。 「どんな初恋だ?」 「保育園、だと思う。先生。今は保育士って云うのか」 「ませてるね。三歳とか四歳の頃の話だろう?」 「わからない。小学校に上がる頃に養父母の家に迎え入れられた記憶はある。それ以前の話だ」 「養父母ねえ」 「好きだ、結婚してくれと先生に泣いて抱きついた記憶がある」 「子供なんて皆そうさ、近くにいる大人が魅力的に見える」  まあ元気ならいいや、服買えよとホームレスは男の剥き出しの肩を叩いた。青白い火花が散り、ホームレスは妙な言葉を叫んで逃げ去った。  黒雲が雷鳴を呼ぶ。  俺はどうしてしまったんだ。  男は手近にあった黒い布を身体に巻き付け、雲行きが怪しい空を見上げた。  手のひらを見た。  火傷痕だけではない、以上に黒ずんだ表皮。  何がきっかけかわからないが、青白い光を放って放出される光。その正体は電光だ。  男はだから、こんな身体になってしまった理由が知りたい。  記憶は曖昧で、意識は今も混濁している。  無闇に歩き回って僅かながら得たものがある。  自分が今の自分に至った経緯、その欠片だ。  どうやら自分は大火傷を負い、入院していた。火傷を負っただろう事は身体中の痕を見れば一目瞭然だ。そしてその治療に大いに関わっていたのが武郷ロキという男。彼はその一件で人体実験の疑惑を持たれ、一度は警察に捕まりそして保釈された。拾った週刊誌で得た情報だが、ロキが男の過去に大きく関わっているのは間違いない。大学病院に勤務していることまでは雑誌に書いてあったが、今の男の容貌では中に侵入することは難しいだろう。警察に捕まってもつまらない。身体に宿った不可思議な力のせいで拘束される可能性もある。  ロキともう一人、男は探している人物がいた。  男はその人物に助けられたと認識している。その人物はキルスイッチと呼ばれる厄介な存在であるようだが、そこはあまり気にならなかった。いや、だからこそ会って、真意を質したかった。 「先ずは、」  どうやってロキに近付くか。  男はロキの周囲をうろつく新聞記者に目をつけた。
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