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25
ふらふらと歩く面相の悪い男。ぼろぼろの服、左胸に大きな傷痕。異様だ。
「あんた大丈夫か?」
面相の悪い男は声を掛けた男を見る。
「大丈夫だ」
焦げた臭い、聞き取り難い声。
「服買えよ、風邪引くぞ」
「生憎夢から覚めて金がない」
声を掛けた男はどうやらホームレスのようだ。半裸で徘徊する珍奇な男を呼び止め、何のことはない暇潰しをしようとしている。
「どんな夢だ?」
「初恋」
「へへえ、そりゃまた随分」
俺の初恋は別れた女房だがなと、ホームレスは鼻水を啜るように云った。
「どんな初恋だ?」
「保育園、だと思う。先生。今は保育士って云うのか」
「ませてるね。三歳とか四歳の頃の話だろう?」
「わからない。小学校に上がる頃に養父母の家に迎え入れられた記憶はある。それ以前の話だ」
「養父母ねえ」
「好きだ、結婚してくれと先生に泣いて抱きついた記憶がある」
「子供なんて皆そうさ、近くにいる大人が魅力的に見える」
まあ元気ならいいや、服買えよとホームレスは男の剥き出しの肩を叩いた。青白い火花が散り、ホームレスは妙な言葉を叫んで逃げ去った。
黒雲が雷鳴を呼ぶ。
俺はどうしてしまったんだ。
男は手近にあった黒い布を身体に巻き付け、雲行きが怪しい空を見上げた。
手のひらを見た。
火傷痕だけではない、以上に黒ずんだ表皮。
何がきっかけかわからないが、青白い光を放って放出される光。その正体は電光だ。
男はだから、こんな身体になってしまった理由が知りたい。
記憶は曖昧で、意識は今も混濁している。
無闇に歩き回って僅かながら得たものがある。
自分が今の自分に至った経緯、その欠片だ。
どうやら自分は大火傷を負い、入院していた。火傷を負っただろう事は身体中の痕を見れば一目瞭然だ。そしてその治療に大いに関わっていたのが武郷ロキという男。彼はその一件で人体実験の疑惑を持たれ、一度は警察に捕まりそして保釈された。拾った週刊誌で得た情報だが、ロキが男の過去に大きく関わっているのは間違いない。大学病院に勤務していることまでは雑誌に書いてあったが、今の男の容貌では中に侵入することは難しいだろう。警察に捕まってもつまらない。身体に宿った不可思議な力のせいで拘束される可能性もある。
ロキともう一人、男は探している人物がいた。
男はその人物に助けられたと認識している。その人物はキルスイッチと呼ばれる厄介な存在であるようだが、そこはあまり気にならなかった。いや、だからこそ会って、真意を質したかった。
「先ずは、」
どうやってロキに近付くか。
男はロキの周囲をうろつく新聞記者に目をつけた。
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