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 興奮が鎮まらない。  性的興奮に目眩がする。  本来性的興奮とは、配偶行動を促すものとして動物に備えられた生理現象である。例えば人が、異性の部位、胸や腕、足や筋肉にそれを覚えるのはごく普通の反応であり、それはそのまま、その部位の主との生殖行動に繋がるものだろうからだ。 「目玉を舐めたい」  ひたすら美女の綺麗な眼球を愛でたい。  それが手に入るなら本体は要らない、生きていても死んでいてもいい。  目玉にしか欲情しない。興奮しない。  性的不能ではない、性嗜好異常。  それでいいんだと云われた。  それが本当の自分だと、許し、解放するところから始めるのだと。  自分を殺し、世間や社会に迎合しても苦しいだけだと。 「いいのかこのままで?」 「それが自分ならば」  他人に、それも専門家とおぼしき人物に許された。  世間的には成功した部類に入るだろう。年収は一千万を超え、都心の高層マンションに住み、車もスーツもイタリア製。週に一回歯のホワイトニングに通い、週に四回会員制ジムで汗を流す。  学生時代ずっとバスケをやっていたお陰か背も高く、見映えだって悪くない。  モテた。  そして、モテる。  ただ、  どれほどいい女とデートしようと、上手くいこうと、目玉ばかりを見てしまう。顔が整っていようと、化粧が上手かろうと、性格が優しかろうと、服の趣味が良かろうと、肌が綺麗だろうと、気配りが出来ようと、目玉ばかりを。  目玉が、目玉が目玉が、 「眼球が」好きだ。  理想のそれが手に入るならば、今持っているその全てを捨ててもいいとすら思う。キャリアも地位も人間関係も、家も車も、貯金も、全て。  そう思うのはそんなものが手に入ることなど有り得ないと、何処かで諦めていることの裏返しでもある。それはそうだ、高収入であろうと社会的ステータスが高かろうとルックスがモデル並みであろうと、女性の眼球だけを愛でていいわけがない。  理性は強い、自制心もある。常識も社会通念もきちんとしている。  だから。 「嗚呼、美しい」  目の前に美しい眼球がこぼれ落ち、嗚呼、  堪らない。  衝動を解放することの、何と素晴らしいことか。  身震いするほどの快感。  今までどの女よりも、それは身の内の全てを燃やし尽くすような愛しさだ。垂れた眼球を両手で受ける、それだけで気が遠くなる。荒れた呼吸を整えることが出来ない。それでいい、それでいいのだ、 「あ、嗚呼、あ、あ、あっ、あっあっあッあッあッ」  果てるな。衆人環視の状況で、そんな真似は、 「ダメだ、駄目、だ、あ、」あッ!  輪郭が溶ける。  比喩ではない、身体が表面から崩れだした。 「な、なんだっ! どういうことだ!」  髪が抜け落ち、皮膚が崩れ、目が歯が舌が地面に落下する。  狼狽えてももう遅い、血が蒸発し骨が露出する。  境界が滲む。  曖昧になり融解する。融合する。  また失敗だったと声がする。  男の声か女の声かそれすらわからない。  そもそも声が聞こえていたのかどうか、振動でそう感じ取っただけか。  振動?  また声だ。  どうなったのこれと何者かが云っている。  地面と同化したんだと応える。  同化?  誰が? 俺が?  どうしてだ? どういうことだ! 「何こいつ、一生このまま?」 「いや、生命維持が出来ない、じき死ぬ。もう死んでるかもな」  どういうことだ!  助けてくれ! 誰か助けてくれ!  畜生、騙しやがって! 畜生! 助けろ! たす、  だ、れか、
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