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濡れそぼった足、爪先から滴り落ちる雫。
這いずる舌が足にまとわりついた夜露のような水滴を舐めとっていく。
ぬめぬめ、ぬめぬめ、ぬめぬめ。
デニールの低いストッキングの上から女の細く綺麗な脚を舐め上げる。
屈辱はない。緩やかな愉悦と吐き気にも似た高揚、甘い目眩に支配されている。
爪先からふくらはぎ、脛から膝の下まで、緩慢に、丁寧に、執拗に。
男は勃起していた。性器が固く反り返っていた。
気に障ったのか女は男の顔面を蹴る。
そして衝動は加速する。内なる炎はやがて身を焼き焦がし、性の欲動、行き過ぎた情欲は何処にも辿り着かず何も為さず、代替行為としての、
貴方は人とは趣の違うものを嗜好していないか?
ともすれば変態の謗りを受けてしまうような偏愛の対象はないか?
欲望、
妄念、
妄執、
たぎる熱、
湧き上がる欲求、
抑えきれない性衝動。
ただの衝動ではない、性の衝動。
※
集まって話をしている。
加わりたいとは思わない。どうせ低レベルな話をしているに違いないからだ。低脳な話に合わせるべく自分のレベルを下げる労力ほど無駄なものはない。
孤独だって嫌いじゃない。
縦しんば声を掛けられたとすれば、仲間に加わってやらなくもない。だがきっと、低脳ぶりに鼻で笑ってしまうが落ちで、ならば矢張り寄らぬが正解ということになる。無理に軋轢を生じさせる必要もなければ、無為に他人を傷つけることもない。
「ぴったりニットに巨乳」
「胸は小さいほうがいい」
「髪が短ければどうでも」
「顔踏んでくれたらOK」
「匂いだな臭いほど好き」
「スク水以上のものない」
「エナメルブーツ。白で」
「幼女好き、五歳くらい」
「人のエッチを覗きたい」
「死体がいい、大好きだ」
「人間は面倒。羊がいい」
「喉仏、筋肉、血管、指」
「髪の毛につつまれたい」
聞こえてきたのは案の定浅い話。
卓に乗ったノンアルコールドリンクに目を落とす。矢張り加わる価値はない、相変わらず声は掛けられていないままそう思った。
「帰ろう」
盛り上がる十年ぶりの同級生たちに何も告げず店を出る。やっぱり来るんじゃなかったと。
そこからの記憶は曖昧だ。
血の海。
「お兄ちゃん」
正義ってなんだ?
考えたことがない。
働きかけること? 守ること? 貫くこと?
「お兄ちゃん!」
驚いたような血塗れの妹の目が忘れられない。
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