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 道行く人々、公園で遊ぶ子供、コンビニで買い食いする高校生。  平日の昼下がり、ありふれた日常。  アスファルトにゴムタイヤを焦がして、大型トラックがその巨体を揺らし街のメインストリートを暴走していく。街路樹の梢からカラスが鳴き喚いて飛び去った。運転席に座ったドライバーの首はあらぬ方向にひん曲がっている。  四隅をテナントビルに囲まれたスクランブル交差点、歩行者信号は青。多くの歩行者が横断歩道を渡っていた。  一瞬にして多くの人命が散った。  死んでしまえばそれは多くの善良な市民。  トラックは交差点の直近のビルに突っ込み、爆発炎上した。瞬く間に交差点は阿鼻叫喚の様相と化した。  泣いている子供を抱き抱え、安全な位置まで運ぶ女子高生。その横に足を挫いた老婆が倒れている。誰もが何が起こったのかもどうしていいのかもわからず、狼狽えている。  横倒しになり黒煙を噴き上げるトラックから現れた影。  全身黒。炎を背にしているがゆえの黒ではなく、真実黒。一部の隙もなく全身真っ黒だ。異形。総身を覆っているものはゴムだ。  それは破壊を行う魂。  吐息、熱くゴム臭い吐息  彼が興奮状態にあるのはその仕草でわかる。身震いをし周囲を見回すその顔面も一部の隙もなく化学合成された皮膜に覆われていた。  誰かが叫ぶ、キルスイッチだ逃げろと。  キルスイッチとは災難と同義。突如として降って湧いた、破壊を好み、人を傷つけることを悦ぶ存在の通称だ。  逃げ惑う群衆を追い掛け追い詰めるキルスイッチ、その名をシンリジィ。  シンリジィは赤ん坊を抱く母親に近寄り、泣き叫ぶ乳児の頭を鷲掴みにすると躊躇なくねじ切った 「早く逃げて、走るの!」  先程助けた小さな子供に必死に女子高校生が声を投げた。それに気づいたシンリジィが子供に向かった。その間に女子高校生は割って入り身を挺して子供を守らんとする。子供は足を縺れさせながら逃げ、シンリジィの視界から逃れるようにしてビルの角を曲がった。  その小さな影をシンリジィが追い、  吹っ飛ばされた。  ブラックタイドだ。その立ち姿、美しく、強い意思を感じさせる。  シンリジィは呻きながら立ち上がり、何処にあるかも知れない目玉でブラックタイドのチタン製の装甲を見つめた。その呼吸は相変わらず荒いが、敵愾心からくる呼吸の乱れ、恐怖、怒りなどに起因するものではなく、  興奮している。  ゴムに全身を包まれ、あまつさえその姿を衆目に晒し、シンリジィは甚だしく興奮しているのだ。  興奮は脳内麻薬の分泌を促し、彼の筋力を、運動機能を、反射速度を増加させる。  ブラックタイドは再度シンリジィをチタンの拳で打った。長身痩躯の怪人は上体を仰け反らせ足を散らすが、すぐに体勢を建て直し威嚇の姿勢を取る。  脳内麻薬は痛覚を麻痺させる。  キルスイッチがそうした輩であることは情報として持っている。ブラックタイドは慌てることなく右拳の刺突剣でシンリジィの足の腱を傷つけた。躊躇などない、相手は破壊者。それも息をするかの如く街を壊し人を壊す手合い。  どのような犯罪者であろううと人を傷つけるのは良くない、法による裁きを受けさせるべきだと主張する人種とは会話はしない。そんなことでは今目の前で困窮する人間を救うことができないからだ。 「違うか、ゴム男」  シンリジィは低く唸ると獣のように這いつくばり、腕の力のみで跳躍、ブラックタイドに体当たりを喰らわせ、その場から離脱した。
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