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序章②
その時、僕と彼女の横に白い塊が立っていた。その塊は、動物のカピパラに見えた。いや、動物じゃない。カピパラの着ぐるみだ。
これ。
ご当地ゆるキャラにいそうなアレだ。カピパラは彼女と同じくらいの身長だった。このゆるキャラ、一体どこから現れたんだ?
「転移、開始します」
カピパラが喋った。いや、ゆるキャラが喋ったら駄目だろう。しかもこの声、機械音みたいでおかしいぞ。
あれだ!テレビの番組で、プライバシー保護の為に、音声を変えてる奴と同じ声だ!
カピパラが喋った瞬間、僕の視界は暗転した。目の前の風景が一瞬で変わった。
僕は乾いた砂漠の上に立っていた。量販店で買った安物のスニーカーは、半ば砂の中に埋もれている。靴の中に大量の砂が入り込み
、ザラザラして気持ちが悪い。
砂漠は地平線の先まで、ずっと広がっている。空は薄暗く淀んでいる。太陽も薄雲に隠れてなんだか頼りな見くえた。
······一体ここはどこなんだ?僕は、川沿いの桜並木道にいた筈だ。
「ここは、遠い未来の地上の姿よ」
気づくと僕の後ろに彼女が立っていた。慌てふためく僕と違い、彼女は取り乱すこと無く至って冷静だ。
「一度しか言わないから、これから私が言う事、よーく耳の穴かっぽじって、死ぬ気で聞いてね」
彼女の言葉は、乱暴の中に何割か恫喝が含まれているような気がする。彼女は語り始めた。この世界の成り立ちを。
彼女が言うには、人類が誕生した当初、世界に季節と言うものは存在していなかったらしい。
この世界を創造した、理の外にいる存在が
季節というものを創り出した。なんの為に?
季節の移ろいは繰り返して行く。命の始まりと終わりも同様に。
理の外の存在は、人間に限りある生命の大切さと愛おしさを感じて欲しかったのだ。季節の変化と共に。
そして季節が正しく流れて行く為に、人間の中から季節の守り人を選びだした。選ばれた守り人達は、与えられた力を使い、季節が正しく過ぎて行く為に力を尽くした。
その行為は次の世代に引き継がれ、そのまた次の世代へも継がれ、守り人は人間の歴史と共に、自分達の役目を果たして行った。
だが、気の遠くなるような歳月と共に、守り人の伝統も廃れて来た。幾世代にも引き継がれてきた役目もいつのまにか忘れ、守り人達は普通の人々達に溶け込んで、埋もれて行った。
「季節がおかしくなっていったのは、そこからよ。最近、季節感が無くなってきたって感じる事は無い?」
······確かに、言われて見れば冷夏や暖冬。酷暑に寒すぎる冬。季節が変わる度、ニュースで異常気象ってよく言ってる気がする。
「それって、人間が原因なのかな?自動車や工場が出す二酸化炭素で、温暖化してるとか
?」
彼女は僕を見て、すごく残念そうな顔をしてる。な、なんで?
「アンタって······いや、アンタが考えられる答えって、その程度よね」
彼女は残念そうに首を振る。な、なんだよ
、その程度って!必死に考えた僕が馬鹿みたいじゃないか!
「理の外の存在。彼等が作った季節は、そんなに柔じゃないわ。全ての原因は、守り人達が役目を果たさなくなったからよ」
彼女は続ける。どんな精密機械も、人間の身体も、使い続ければいずれガタがくる。そ
れは季節も同じだった。歪んだ季節の調整。
守り人の仕事は正にそれだった。
守り人達の役目が長く行なわれなくなってから季節の調整が放置され、この世界の気象がおかしくなってきたのだ。
季節の守り人は、二十四の一族が存在した
。一族達は各地に散り、各々の担当する時期にその役目を果たす義務があった。
「稲田佑。アンタは、その二十四の一族の一つ。清明一族の子孫よ」
······え?僕がその一族の子孫?なんだそれ
?どういう事?初耳もいいトコなんだけど。
呆気に取られる僕を無視して、彼女は粛々と言葉を続ける。
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