序章③

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序章③

 二十四の一族には、中心的役割を務める、二つの一族が存在した。一つは春分一族、もう一つは清明一族。  この二つの一族には、季節を調整する他に 、もう一つ役目があった。二十四ある一族同士をまとめる役目だ。  一族同士いざこざがあった時。一族が役目を怠る時。春分一族と清明一族は、それらの問題を収めなくてはならない。  その義務を務める為に、清明一族の子孫の僕が選ばれた。彼女は確かにそう言った。  ······にわかに信じられない。いきなり一族の子孫だからって務めを果たせ? 「二十四節気って分かる?」 「二十四節気?·······ええと、あ!朝テレビの天気予報の時、時々言ってるやつだよね」  僕の答えに、彼女は更に残念そうな顔をした。し、失礼だなこの娘。二十四節気なんて 誰も気にしてないだろ。 「一年の季節は、二十四に分けられているのよ」  二十四節気。理の外が作った暦だ。人間が季節を分かりやすく感じとる為に、一年間を二十四に分けた。  清明一族の清明も、その二十四節気の名の一つらしい。古来、二十四の一族に問題が発生した場合、一族同士決闘が行われた。  決闘に勝った側の意思決定は絶対だ。破れた側は、その決定に必ず従わなければならない。  彼女が言うには、清明一族の僕が、他の一族達と決闘して、勝利する必要があるらしい。そして相手に命じる。与えられた義務。すなわち季節の調整を再び行えと。  ······決闘?いきなり訳が分からない場所に連れてこられて、誰だか知らない相手と決闘しろって?何を言ってるんだこの娘は? 「ええと、色々と質問があるんだけど」  僕が言い終える前に、彼女は手のひらを突き出した。なんだか飼い主に待てと言われた犬のような気分だ。 「先ずは私の話を聞いて頂戴。それでも分からない事があったら質問して」  アンタの下らない質問にいちいち答えるのは御免よ。なぜか彼女はそう言ってるように聞こえた。  彼女は、僕が疑問に思ってそうな事を、話し始めた。  最初に決闘は放棄出来ないらしい。決闘を終えなければ、ここから帰れない。季節の調整とやらは、その理の外の存在がすればいいと思うがそれは出来ない。  季節。いわいる暦を調整する力は、二十四の一族に分け与え、理の外の存在はその力を失っているからだ。そしてあのカピバラの着ぐるみは、理の外から来た決闘の審判らしい 。  決闘の方法は、その都度このカピバラが決める。  暦の調整をこのまま放置すれば、地上はいずれ今僕が立っている、一面砂漠地帯になるらしい。  そして彼女の存在。彼女は、僕を助力する為に派遣されたらしい。清明一族は、春分一族と並び、他の一族を指導する立場にいる為 、特別に助力を担当する人材が与えられる。  ······たちの悪い白昼夢。さっきから僕はそう願っていたが、夢では無いらしい。彼女にバレないようにお尻をつねってるが、痛みを感じるし、砂が入った靴の感触も続いている。  何よりこの場所の気候。一面砂漠のせいか 酷く乾燥している。さっきから喉が乾いてしょうがなかった。 「質問が無いなら、決闘始めるわよ」  嫌だ!誰がそんな面倒な事するもんか!······僕はそう考えていたが、敢えて黙っていた。その決闘とやらに負ければいいんだ。  決闘さえ終われば、元の世界に戻れる。さっさと戻って、昨日のゲームの続きをしよう。清明一族?暦の調整?知るもんか。そんなもの。 「ああ、一つ言い忘れた。決闘に負けたら、この地上からアンタの存在は消えるから」  授業で提出する課題を家に忘れました。彼女はまるでそんな台詞を言っているかのような気軽さだった。  ちょ、ちょっと待ってよ!そこ、一番重要で、最初に言わないと駄目なヤツだろ!! 「清明一族と、穀雨一族の決闘を開始します 」  カピバラの着ぐるみが、機械音の言葉を発し、結構の開始を宣言した。  砂漠の向こう側から人影が見えた。僕の決闘相手らしい。彼女が先刻言ってた。もう相手が来ていると。それって僕の決闘相手の事だったのか?  顔面蒼白の僕に彼女は両腕を組み呟いた。その言葉は、なぜか僕の耳に印象強く残った 。 「これは、暦の歪みを正す戦いよ」  清明一族に生まれ事を恨む暇も無く、さっきまでの僕の日常は一変した。
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