二度目の思い出

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俺たちはある日、この世界の常識に抵抗して、自分達の記録を残そうと考えた。 誰が言い出したのか今となっては分からないが、それが三人の誰であれ、理由はきっとこうだ。 ここで笑い合ったことを、忘れないように。 缶に写真を入れ再び埋め終えた時、「死んだ人を忘れない世界じゃこんな手間もねぇのにな」と弘也は笑った。 次にここを掘り起こすのは俺たちのどちらかが死んだ時だろうか。その時にまた、写真のメッセージに気付くといいが。 俺たちは他にも大切な人を失っているかもしれない。例えそうであっても『死に忘れ』がそんな悲しみを忘れさせてくれている。 そうしてこの世界の人々は、悲しみに囚われることなく生きている。それは神様のおせっかいであり、救いでもある。 これから俺は、何度も彼女を思い出す。そしてその度に、失った悲しみに触れるはずだ。かつてこの世界に留まろうとした罰のように、その悲しみが消える事はないと思う。 ならばせめて、そんな悲しみに触れた時は、三人でいた頃の思い出を想像しよう。 幸い俺たちは、彼女の笑顔しか知らない。想像の中の小春はいつも笑ってくれて、きっと楽しい思い出を作ることができるはずだ。
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