二度目の思い出

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写真の中で、俺と弘也(ひろなり)に挟まれて楽しそうに笑っている安藤(あんどう)小春(こはる)に、俺はまるで見覚えがなかった。クラスメイトだったという彼女は、もう死んでしまっているからだ。 「で、この写真をどこで見つけてきたんだよ」 俺は呆れながら、隣でカメラをいじる弘也に尋ねた。 「この間安藤の葬式があっただろ。俺、クラス代表で手伝いさせられてたんだよ。その時、物渡(ものわた)しの準備部屋にこっそり入ったんだ。そこでたまたま見つけた」 俺は再び呆れる。物渡しの準備部屋に、クラスメイトが入るなど言語道断だ。ましてや、死者と共に焼かなければならないはずの遺物を盗むなんてどうかしている。 「その写真、名前と顔が一致してんだろ。物渡しが始まる前に誰かにそれが見つかったら俺たち捕まるんだぜ。助けて貰ったと思え」 「これ、そのカメラで撮った奴だろ。捕まったら一番やばいのはお前だな」 「記録法なんてクソ喰らえだよ。撮影免許を国がくれなくても、俺は撮り続けるっつうの」 憤る弘也をスルーして、俺は再び写真に目を落とした。そこに写る三人の胸には、漢字でフルネームが刻まれた名札がきちんと付けられている。顔と名前が明確に写っているこの写真は、れっきとした記録法違反だ。 裏面を見ると、今度は三人のフルネームがローマ字やカタカナで書かれていた。名前を読み間違えられるのが嫌だったのだろうか。でも、誰に? 「この場所で撮られてるってことは、それだけ俺たちは仲が良かったんだろうな。俺もお前も女友達なんていないから、安藤は俺たちの唯一の女友達だったってことだ。いや俺の彼女だったかもしれねぇ」 彼女が死んでしまった今、彼女に関する記憶は全くない。しかし、弘也の恋人ではないことは確信できる。撮影免許を持つ父親のカメラをこっそり持ち歩いては、バシャバシャと風景を撮影している弘也は、生徒の中では浮いた存在だ。なぜか大人への上っ面だけは良く、葬式のクラス代表に選ばれるほど教師からの信頼が厚いことも、『変な奴』というキャラ付けに貢献していた。 弘也の言う通り、写真の背景は今いるこの場所のものだ。河川敷を渡るこの橋の下は俺たちの溜まり場で、放課後になるといつもここに来ている。この場所に安藤小春と一緒にいたということは、確かに仲が良かった証拠になる。 今一度、安藤小春の笑顔に目を向ける。こちらを見て楽しそうに笑うその目、鼻、唇、肌。どう見ても初めて見る顔だ。 もし俺の恋人だとしたらなんと虚しいことか、と考えたが流石に自分で自分が恥ずかしくなって、俺は彼女から目を逸らした。
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