軍事衛星

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 衛星に辿り着いたオレは、制御装置を探した。  それにはカバーが付けられていてネジで止められていたが、母船に備え付けの緊急用修理キットの中に入っていたドライバーで簡単に開ける事が出来た。  中には16個並んだボタンと、電卓のような8桁の表示器が入っている。   「こいつ……ワンボード式マイコンの『YZ80』じゃねーか。これはステイツの発明品だっつーのに……あいつら『祖国の誇り』ってモンは無いのかよ」  多分、制御装置自身は簡単なシステムになっているはず、という目論見はあった。あまり複雑なシステムを組むと誤動作の原因になるし、メンテナンスが難しくなるからだ。  なので『動作の安定した枯れた技術を使いたい』という発想は理解出来るが。そのためには敵国の物であっても利用するとは、如何にも東側らしい合理主義と言えよう。 「だが助かる……これなら、高校(ハイスクール)時代に実習で使っていたからな……」  キーを叩いて、中のプログラムを読み出す。  LCD表示器に《0000 3E 97》の文字が表示される。   「アドレス0000,LD(ロード)97……間違いない、『マシン語』だ。……思いだせよ、オレ……」  必死に、高校時代の記憶を手繰る。 「いいか……?大学の時に教授が言ってたろ『人間はいちど覚えた物を忘れる事は無い』って。『脳のシナプスの繋がりが弱くて、思い出すのに時間が掛かっているだけなんだ』ってよ。……だから……頼むからオレの脳、今だけは全力で繋がってくれよ……」  必死に古い記憶を呼び覚まし、マシン語を解読する。  そして、2時間ほどで大方のプログラムの流れを把握する事が出来た。 「よし、これで分かったぞ……外部からの信号で、ここの番地(アドレス)に『1』が立つ事で、システムが起動するんだ。そして、こっちのセンサーが圧力(プレッシャー)スイッチになっていて……大気圧を感知して『起爆させる高度まで下がった』と判断したら起爆装置に信号を送る……と」  ひとつのシステムが理解出来れば、後はスムーズだった。  マイコンのプログラムを書き換え、起爆信号が出ないようにする。これで、地表近くまで行っても爆発する事は無い。……多分。  そして、ヘルメットの中でひとつ大きく深呼吸をする。  手元には、母船から持ってきた酸素ボンベもある。 「やれやれ……せっかくのピクニックだってのに、ヘルメットを被りっぱなしじゃぁメシも食えないか……仕方ねぇ。地上に戻ってからステーキでも食いにいくさ……エリーと一緒によ」  意を決し、衛星に起動命令を入力した。  バシュ!と短い音がして、衛星の後方でエンジンが青い火を噴き出しているのが見える。  オレは、祖国(ステイツ)を目指して加速を始める衛星に必死でしがみついた。 「よし行くぞ! 我が祖国(ステイツ)までの超特急臨時便だぜ!」
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