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立て直し
しばらくの間、オレは何もせずただ呆然と窓から外を眺めていた。
分厚い耐熱ガラスで仕切られた向こうには、故郷の星が見えている。
この母船は静止軌道に居るから、あと数時間で地球と共に夜の闇が訪れるだろう。多分、それがオレにとっても『最期の時』だ。明日も地球に陽は昇るだろうが、生きているオレを照らす事はあるまい。
「ああ……ちくしょうめ。何だってオレは、こんな無茶をしてまで宇宙に行きたかったんだ!」
掻きむしった両の瞼から、己の不幸を呪う涙が溢れてくる。
この船には地球に音声を伝達するシステムが存在しない。何故なら敵国にこちらの動向を知られる訳には行かないからだ。そしてそれは即ち『何かあっても地上スタッフは援護しない』事を意味している。
……くそが!オレは充分に分かっていたはずだろうに。『スパイ』という職業は、そういう物なのだと。いざとなれば祖国のために見捨てられる運命にあるのだと!
だが、それでも尚……
はは、情けないものだな。
こんな事になるならエリーの提案を受け入れて、一緒にニューヨークへ行けば良かった。こんなクソッタレで薄情な情報部なんてさっさと辞めちまってよ!
それを『もしかしたら極秘任務で宇宙に行けるかも知れない』なんていう打診をされて有頂天になっちまったばっかりに「オレには人生を賭ける仕事がある」だなんて見栄を切っちまった。
……エリーには悪い事をしたな。今さらだがよ。
「エリーか……あいつ、今頃何をしてんだろうなぁ……」
ロスで同棲していた時は『口うるさい女だ』とうんざりしていたが、こうして思い返すと、その全てが愛おしくてならない。
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