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軍事衛星
オレは急いで母船に戻ると、すぐにデータを再確認し始めた。
「確か……ここからそんなに遠くなかったハズだ。……あった、これだ!」
モニターには、一昨日撮影したばかりのバスほどの大きさもある円筒形をした奇妙な『人工衛星』の姿が映っていた。ジュラルミン製と思われる側面には、今は無き共産圏の某大国の名前が刻まれている。30年以上前に打ち上げられたであろう古い機体だ。
そして、その『腹』に大事そうに抱いているのは――
多分、『原爆』だ。
冷戦時代。超大国同士の全面戦争となった場合に、一番最初に狙われるのが『長距離ミサイル発射基地』だろうと言われていた。仮にI C B Mを撃ち込まれれば、一瞬にして都市が壊滅してしまう危険があるからだ。
この衛星は恐らく、そういう状況を想定したものだろう。
万が一の場合に、静止衛星軌道上から落下して相手国に打撃を与えるという恐ろしい兵器なのだ。もはや狂気の沙汰と言っていい。
だが。
今となってはオレにとって唯一の希望なのだ。
「これなら……とりあえず、祖国に向かうのは間違いない……」
これが現役の機体であれば、オレにも躊躇はあったかも知れない。
が、しかし。とうの昔に無くなった国の所有物であれば、勝手に使用しても後で請求書が届くこともあるまい。
オレは補充した燃料で母船のスラスターを作動させ、その原爆衛星に進路を向けた。ほぼ同じ軌道上に居るのだから相対速度もほぼ同じはずなので、スラスターによる加速をしなくていいのが助かる。
「あった……あれだ」
遥か向こうに、銀色に光る機体が浮かんでいる。
流石に時代を感じさせる機体ではあるが、それでもムダの無い設計がされていると感心する。これが30年以上も前に作られたと考えると、当時の技術力は相当なものだったのだろう。敵ながら恐れ入る。『使わずに終わった』事は神に感謝を捧げなくてはなるまい。
「さて、準備をするか」
大きく息を吸い、用意を始める。
壮大な、『ピクニック』の始まりだ。命の瀬戸際だと言うのに、何処かワクワクしている自分がいる。
そして、宇宙服とスラスターを身に着けて再び宇宙空間へと飛び出していく。
機能性が最重要視される宇宙服だから、お世辞にも『格好いい』とは言えないが、今のオレにはアルマーニよりも価値のある服だ。
ま、それもそうかも知れない。何しろ1着1千万ドルを超えると言われる『高級服』なのだから。
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