大気圏突入

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大気圏突入

 それは『退屈』と言えば、あまりに退屈な旅だった。  何しろ全くの孤独で、周囲には人影どころか生き物の姿とてない。  ラジオやテレビがあるでなし、周囲には輝く星々があるばかりだ。 「……しまったな。せめて双眼鏡くらい持ってくりゃぁよかったな。そしたら暇つぶしくらいにはなったろうに」  辺り360度。何処を見ても星が見える。ある意味とても完璧(パーフェクト)なプラネタリウムと言えようか。  もしも自分が少年時代に戻る事が出来るのなら、これほどの幸せは無かったに違いあるまい。……生きて帰れる保証があればの話ではあるが。  船から持ってきた電気のコードで自分と衛星を縛り付けてあるから『離される』心配はない。  何時しかオレは、ウトウトと寝てしまった。そこまで緊張していたつもりは無かったが、それでも7日間の任務で疲れは溜まっていたのだろう。  そして突然、ドドン!という大きな振動で眼が覚める。 「ど、どうした!」  慌てて周りを見渡すと。  すでに地球は眼の前に大きく広がっていた。  雲がたなびいているのが肉眼でハッキリと認識出来る。 「こんなに地表が近いだなんて……オレは何時間寝てたんだ……」  せめてもう少し、星空を楽しめば良かったと反省もしたが。  だが、ここからがこのミッションの山場である。気を引き締めねばならない。  見ると、衛星は背後に付いていた宇宙空間推進用のブースターが無くなっていた。さっきの衝撃が、その切り離しだったのだろう。 「さあてと……祖国(ステイツ)の何処に降ろしてくれるんだろうな……ワシントンD.C.か、ニューヨークか……それとも空軍基地のあるエリア51かな……?」  バシュゥゥゥ……!  切り離された『原爆』の前方で、4発の減速用スラスターが猛烈な逆噴射を始めている。中間圏は大気が薄いからパラシュートが使えない。なので、ロケット噴射で減速調整する必要があるのだ。そうしないと、地表に辿り着く前に原爆が摩擦熱で燃え尽きてしまう。 この『減速』こそが、オレの狙いだったのだ。それでも、超耐熱を誇る宇宙服でなければ命が無いだろうが……  バン……と音がして、外部酸素タンクが吹き飛ばされる。  これで、残る酸素は付属するタンクの1時間分余りのみだ。 「くそっ……凄い振動が……はは……当たり前か……人間が『乗る』なんて想定されて無いからな……」  ガタガタと激しい揺れに、オレは必死で耐え抜いた。  そして、暫くしてから。  ボボン!  後方でまた大きな音がする。  対流圏に入り、パラシュートが展開したのだ。急激に落下速度が低下する。 「よしっ!やったぜ! ここまでくりゃぁ……あと一息だ!」
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