タクシードライバー幻想奇譚

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僕はこのエピソードを聞くのが好きだった。三島の最期こそ凄絶異常だが、三島文学は好きで当時ほとんどの作品は読んでいたし、何より叔父にとっては都会の冷たさに傷つけられ、心を折ってしまった田舎者が東京で体験した数少ない良い出逢いの想い出だったのだと思えたからだ。事実、叔父は日本文学に傾倒し文学青年を気取っていた当時の僕(視力の急激な衰えとともに、今はほとんど読まなくなったが)に、事あるごとにこの話をした。 実は以前、このサイトを始めた当初にこの叔父と三島のエピソードを書いたことがある。と言うより、この数奇な出逢いを書いてみたくて、このサイトを始めたのだ。 「あれは俺の中での昭和という時代の残像みたいなもんだ」 そう語る叔父の言葉から「昭和の残像」と題したごくごく短い作品で(今は非公開にしている)、初期の頃からお付き合いのある数少ないクリエーター様なら、もしかしてお読みになっておられる方もいるかもしれない。 だが、この話は少なくとも僕が感じていたような心温まるエピソードではない側面を持っていた事を知るのは、他ならぬ叔父の独白からだった。
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