遠くて遠くて、もう届かない。

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 私は、もうどうしていいか分からなくなって、優しい彼に、甘えてしまった。  すべて、正直に話してしまった。    最近あまり会えていなかったこと。  そんな時、相談に乗ってくれる人が居たこと。  相談だけじゃなくて、その人に好きだと言われて、キスされてしまったこと。  その頃から、気持ちが、揺れているんだと思い始めていること。    でも、やっぱり、彼が大好きだということ。  大好きなのに、アイツのことを考えてしまう自分がいて、嫌で嫌で、どうしたらいいかわからないこと。  大好きなのに、一緒にいるのが、辛くて…。    全部全部、話してしまった。  それが彼にとってどんなに辛いことなのかなんて考えずに、私は、私が楽になりたいがために、全部、包み隠さず。    彼は優しいから…。  全てを聞いた上で、ぽつりぽつりと自分の思っていることも話してくれた。    前に会った時、私の様子がおかしかったこと。  話したいことがあると言われて、とてもとても不安に思っていたこと。  今の話を聞いたうえで、なお私のことを好きだと思ってくれていること。寂しい思いをさせて、ごめんとも。  それから、卒業したら、結婚だって考えていたということも。    途中からは、彼も泣いていた。  5年も付き合っていたのに、初めて泣いているところを見た。  本気で、本気で私のことを想ってくれているのだと伝わってきて、私ももう顔がぐちゃどろになるまで泣いた。    そのうえで、彼は、私に聞いた。    「それで、どうしたいの?」    と。    「…わからない。でも、一度、距離を…ううん、別れた方が、いいのかも、…しれ、ない。」    言ってしまった。  本当にこれでよかったのだろうか。  これが本当に私の伝えたかったことだろうか。    でももう、今更戻れない。    やっぱり別れたくないだなんて、勝手なことは言えないし、もう全部全部話してしまった。  私の弱くて弱くて、それでも彼を繋ぎとめておきたいだなんて汚い考えも。    それでも好きだと言ってくれたけれど、ここで何もせず踏み留まったら、きっとまた、心の中に2つの想いがある重圧に、私は押しつぶされてしまうだろう。    目をつぶって拳に力を入れたら、涙がボロボロと手の甲に落ちた。    そしたらふわりと抱きしめられて、優しく優しく、唇を重ねられた。  最初は優しく、だんだん、深く。    私は抵抗しない。  ただ、涙だけが流れる。    こんなにこんなに大好きなのに、どうしてこうなってしまったんだろう。  私の気持ちが迷子になっている。   なんて、なんて悲しいキスなんだろう。 こんなにこんなに、お互いの好きが込もっているのに。 私やっぱり、彼が大好きで。 大好きで…なのに…。  彼がいつもそうするように、最後に優しく唇を啄んでから、彼の唇が離れていく。 彼が、離れていく…。    「別れたら、サークルのやつと、付き合うのかな。」    自嘲気味に彼は言った。  私は、付き合わないと思う、と答えた。    「付き合って、ダメになったら、戻ってきたらいいじゃん。」    彼の言葉に、私は身を固くしてしまった。  そんなこと、許されるはずないのに。    でも、このまま別れて、どちらとも付き合わずにいたら、どうなるんだろう。  私はなんの答えも出さないまま、ただ、二人を忘れ、二人に忘れられるまで、一人で。  …笑っちゃう。私、本当に何も考えていない。    幼稚で、なにもかも上手くいかない。  彼の心を傷付けて、なんなら自分のことまで追い込んで。    「大丈夫、俺が許す。」    ぽんぽん、と頭に彼の手が置かれた。  何も言っていないのに、見透かされたような言葉が返ってきた。    なんとも居たたまれなくて、私は、ごめん、ごめんね、と泣きながら繰り返すしかできなかった。    
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