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彼と別れて、3ヶ月が経った。
私は、サークルのアイツと付き合い始めていた。
勿論、最初は付き合うつもりはなかった。
けれども、私が彼と別れて、毎日のようにさめざめと泣いていたのをアイツが気付かない訳がなかった。アイツが放っておいてくれるはずも、やっぱりなかった。
「彼氏さんのこと、忘れられなくてもいいから!」なんて、結局、押し切られてしまった。
押し切られた私は、やっぱり弱い、のだと思う。
「付き合って、ダメになったら戻ってくればいいじゃん」て、彼の言葉もちゃっかり思い出していた。
弱くて狡くて、本当に情けない。
サークルのみんなには祝福されて、大学で毎日のように会える。
アイツの家は大学の近くなので、ちょこちょこ家に遊びに行ったりして…
それは素敵なことだと、最初は、思っていた。
でも、やっぱり、なんか違う。
結局、アイツとの付き合いは3ヶ月も続かずに、私の方からさようなら、だ。
このパターンは覚えている。
彼と付き合う前までの、私だ。
好きだ好きだと言ってくれるのが、だんだん、重くなってくる。
私はそんなに好きを返せない。
彼と付き合うまでも、大体いつもこんな感じで、サヨナラを繰り返してた。
彼と付き合って、彼に好きだと言われていた頃は、嬉しくて、幸せいっぱいで、自分も沢山の好きを返していたのに。
結局、私がちゃんと好きになったのは、後にも先にも、彼だけだったのだ。
そんなことに、彼と別れて半年が経って、やっと気付く。
あぁ、空しい。
バイト先の雑貨店のレジ台からは、駐車場と駐輪場がよく見える。
あそこの台に、よく彼が、座って私のバイトが終わるのを待ってくれていた。
高校生の頃は自転車で、お祭りの日は、浴衣で。
大学に入ってからは、「手を繋いで帰りたくて」なんて言って、歩きで迎えに来てくれたこともあったなぁ。
最後のあの日は、車で、あそこに停めて、待っていた。
バイト帰り、いつでも当たり前のように私に差し出されていた彼の手が、そこにはもう無い。
手を伸ばしても、もう、届く事はない。
そんなことを考えていたら、目頭が、ジィン、としてきてしまった。
いけない、いけない、仕事中。
なのに、どうしよう、止められそうにない。
ボロリと大粒の涙がレジ台の上の売上管理表を濡らしてしまった。
私はあわてて管理表を閉じて、レジ台の中に座り込む。
あぁもう、あんな幸せは、戻ってこない。
自分から、手放してしまった。
『戻ってきたらいいじゃん。』なんて言っていたけれど、一月ほど前に、新しい彼女が出来たのだと、昨日、友達のお兄ちゃんから聞いた。
だからつい、仕事中なのに彼のことなんて考えてしまったのだ。
あーぁ、最後の日は、あんなにお互いに泣いていたのに。
なんて、自分が悪いのに、なんとなく恨めしい気持ちになってしまう。
そんな自分が本当に嫌い。
私は結局、彼とアイツの2人ともを傷つけて、振り回して。
そしてもう私の側には、どちらもいない。
大事に大事に育んでいたはずの恋は、一度の失敗で、とても簡単に私の手をすり抜け、転がり出ていってしまった。
今更手を伸ばしても、もう、私には届かないところまで。
すん、と鼻を啜りながらレジ台から顔を出すと、店内は相も変わらずがらんどう。
もう閉店間近なので、お客さんはだれもいなかった。
良かった、助かった。
もう閉店準備の時間だ。
店先の植木鉢を店内にしまうために、外に出る。
外が妙に明るく感じて、私は思わず空を仰いだ。
見上げた先には、煌々と輝く月があった。とっても明るく、まん丸だ。
そういえば彼と最後に話したあの日も、こんな感じの月だった。
あぁお月様、私はもうこのまま、彼以外の人を好きになれずに生きていくのでしょうか。
月があまりに綺麗だからか、少し、おセンチな気分になってしまった。
私は、遠くの遠くの月に向かって、徐に腕を伸ばす。
手を伸ばしても、絶対届いたりしっこないのに。
月を掴むように手を握り込んでみたけれど、まぁ、手の中には何にも入っていない。
そりゃそうだー、と一人で苦笑してしまう。
私の手の中には、もう何も、入っていない。
何一つ、残っていない。
…ん、いや、そうでも、ない、か?
冷たい風が吹くと、ふんわりと揺れるスカートが足元をくすぐった。
彼の恰好に合わせて、私の服装はユルカジで落ち着いた。
それまでお洒落にあまり頓着していなかったのに、彼と買い物をするのが楽しくて、一緒に古着屋さんなんかも行ったりして。
髪型だって、彼が好きなふわふわのセミロング。
これだって今や私のトレードマークだ。
今の私を構成しているのは、もうほとんどが、彼だった。
うん、悪くない、かも?
大好きな彼に捧げた青春。これでいいじゃない。
自分勝手で、幼稚だった私。
次に恋愛するのなら、もうちょっとうまくやりたい。
青春を糧にして、私は成長したのだ。
色んなことを学んだ。
大事なものは、手放してしまったら、もう帰ってこないということも。
少し目頭に浮かんだ涙を飲み込むように目を閉じてから、私はもう一度、月を見上げる。
まぁ届くはずもない。
それなら、こうかな。
親指と人差し指を立てて、狙い撃つ。
「Bang!」
大好きになれる人が、現れますように!
***おわり***
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