第1章 遊女の島

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空穏はもちろん、物見遊山のためにわざわざこんなところへ来たわけではない。 塩竈とサラを伴い救世の旅を続ける道中にて、出入りの行商人たちにこんな噂話を聞いたからである。 いわく、俗に遊女の島と呼ばれる孤島で、若い娘ばかりが魂を抜かれたように呆ける病が多発している。 飯もろくに食べられず、日毎に衰弱していく原因不明の病に医者も匙を投げ、親たちは途方に暮れている。 そうと聞けばじっとはしていられない空穏である。 薬や祈祷を一切使わず指圧だけで病を治す医師たる空穏は、海に怯える塩竈を叱咤しはるばるここまで渡ってきたのだ。 「ブモ、やはり行かれるんで?」 立ち上がり菅笠を取る主人に塩竈が眠そうなまなこを上げる。 「うむ。まずは診てみぬことにはな」 期待しても止む気配の無い雨にうんざりするが仕方がない。船旅の疲れで眠り続けるサラは塩竈に託し、昨夕のうちにも見つけた病人の家へとさっそく出向くことにした。
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