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「桜蜜病?」
患者を診に来た家の母屋で、空穏はもう一度聞き返した。それほど聞き覚えのない病名だったからである。
問われた患者の母は沈鬱な表情のまま、うつうつと眠り続ける我が娘に目を落とす。
「おとつい診に来てくれた漢方の医者様が、そういうとったんじゃ。あん先生も書物では知っとうたが、なまの患者は初めて見たいうとった」
「ほう」
漢方医の見立てであれば、桜蜜病の「桜蜜」とは文字通り桜の蜜を指すのだろうか。そうとして、はたしてそんなものに病の要因があるとはにわかに信じ難い。
苦しげな息をする患者の顔は蒼白にして艶もない。それに、
(これは……)
半目を開けて眠る年頃の娘からは強烈な悪臭がする。僅かに桜の香りも混じっているのだが、ほとんど虫の忌避剤のようだ。
薬に明るくない空穏は、母のいう漢方医とやらに一度会ってみたいと思った。
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