第1章 遊女の島

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体を仰向けに戻してやると、蒼白だった娘の頰に少し血色が現れていた。こころなしか息も落ち着き、肝臓の青みも薄らいでいる。 「なんと、漢方の医者様の薬もよう効かぬでおったが! お坊様は偉いお人じゃ」 婆と並んで歓喜した母が床板へ額をすりつける。 それは悪い気はしないが、空穏はさほど楽観しない。問題はこの後である。このまま落ち着いてくれればいいのだが、どうも根の深い病に思えるのだ。 はたして翌日になって同じ患者のもとへ訪れると、空穏の懸念は現実のものとなっていた。 つまりあんなにも丹念に指圧治療を施したのに、全くもとの蒼白な顔色と、真っ青な肝臓に戻っていたのである。 予想の範囲ではあったものの、落胆をした。 もっと落ち込みの激しい母らに慰めの言葉をかけてやるが、その空穏とて目の前が暗くなる。 しかし諦めずに昨日と同じ治療を繰り返せば、やはり一時的にでも症状は和らいだ。 ならば治療は無意味ではない、絶対にない。 こうして一日分の症状を遅らせていく間にも、絶対に病の正体を暴いてやるのだ。 そう己に言い聞かせ、同じ病に罹患する娘を探し出しては治療に当たる日々が始まった。
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