過去に戻ってあの子を探したい

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過去に戻ってあの子を探したい

 こんなカフェがあったかな? どこか懐かしい、雰囲気のいいカフェだ。  アンティーク風の建物に、木の香りがする入りたくなるカフェだった。  思わず何かに誘われて、入ってみると入り口に、 「過去にもどることができるカフェ」 と書いてあった。  私は、迷わず足を踏み入れた。 「過去に戻ることができると表に書いてありましたが、本当ですか?」 「ええ、本当ですよ」  店員らしき20代の若い男性が優しく微笑んだ。 「うちのカフェの青い紅茶は過去に戻れるのですよ」 「本当ですか?」 「ならば、青い紅茶をください」 「過去に戻りたい理由をお聞きしてもいいですか?」 「私の子供がいなくなったのです、探しても見つかりません。神隠しでしょうか、いくら探してもみつからないのです」  女性はバタフライビーティーを頼んだ。  青くてとっても美しい紅茶。まるで青空や海の色のようだった。  美しい顔をした男性がレモンシロップを持ってきた。 「この紅茶にレモンシロップを入れると……紫になりますよ、さあ、お飲みください。この紅茶のように、あなたの未来が変わるといいですね」  優しい微笑みは本心なのか、営業なのか少しわからなくなるくらいの甘い笑顔だった。まるでシロップのごとく彼の笑顔が甘いのだ。  女性は紫の紅茶を飲んだ。はじめて味わう味だった。酸っぱいけれど、甘い味がする。それは、紅茶好きではなくとも、やみつきになる味わいだった。  意識が遠のく感覚。はじめての感覚だった。あの、紅茶の魔力なのだろうか? アルコールが入っているわけでもないのに、浮遊感があった。体が水に浮いたような感覚に近いと思う。  あれ、ここはあの子がいなくなった日のあの時間帯だ。夕暮れ時に公園に行って、それから、あとかたもなく存在を消したあの子がまだいた時間帯。早く会いたい。そう思い、私は公園の砂場に向かった。いた!!我が子だ。ずっと探しても見つからないあの子がいた。 「ソラくん、いくよ」  我が子の手を二度と離さないように、強く手を握った。  これで離ればなれになることはない。  私の心は安心感でいっぱいになった。  そのとき――  大きな声が聞こえた。  刃物を持った男が襲って来た。  過去にはこんなできごとはなかったはずだ。  刃物を持った男が襲ってくるシナリオはなかったはずだ。  それでも、わが子を守ろうと抱きしめた。男が襲って来た瞬間――  突如救世主が現れた。よくドラマなんかで襲われた瞬間に誰かが守ってくれるそんな場面が今、目の前にあった。背中しか見えなかったが、若い男らしきヒーローが刃物男よりも圧倒的に強い。まさに本物のヒーローを見た瞬間だった。若いヒーローは格闘経験が豊富なのか、圧倒的に有利だった。手首をつかんでヒーローはナイフを奪った。刃物男は、自分のナイフを奪われてしまい、形勢逆転され、不利になったので、逃げていったようだった。  私はほっとした瞬間、気を失ったようだった。  あれからどれくらい時間がたったのかわからないけれど、目をあけると、そこは過去に戻ることができるカフェだった。アンティークな雰囲気と木のにおいが私を包んだ。 「あの、あれは夢だったのでしょうか? 刃物男は? 私の息子は?」  カフェのおにいさんに話しかけてみた。 「息子さんは無事ですよ」  そう言った店員の視線の先には息子がいて、フルーツパフェを食べていた。  見たこともない青いパフェだった。美しい空や海を連想させる不思議なフルーツパフェ。 「助けてくれたのはあなたですね」  私は、刃物男と闘ったであろう店員に感謝の言葉を述べようと確認した。 彼のワイシャツには格闘した痕跡が残っていた。 「ありがとうございます」  私は深く深くお辞儀をした。 「僕は困った人を助けるためにカフェをやっていますので、当然のことをしただけですよ」  ふとみると、不思議なことに、紫色だったはずの紅茶が青色に戻っていた。  
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