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第十六話 ランチパーティーは危険! (その2)
優名達に目をやると、おしゃべりに熱中しながらも、目の前の肉料理をぺろりと平らげていた。主婦たちはたがいに自分が主催するサロンの話題や、夫の職場の話題などに熱中していた。座の空気が一変したのは、うにをあしらったパスタが並べられた直後だった。
「あっ、これっ。あのお皿だっ」
結衣が声を上げ、パスタをフォークで端に寄せた。するとパスタの下から、美しい植物の絵が現れた。パスタの乗っている皿が、陶芸教室にあった絵皿だったのだ。
「本当だ。素敵」
ミドリも調子を合わせた。美咲が「やっぱりお皿は食べ物を乗せた時が一番、素敵に見えるわね」と満足げに言った。
「大切なものをすみません、本当に……結衣、フォークを立てちゃ駄目よ」
「わかってるって。きれいに食べまーす」
結衣はパスタを皿のあちこちに寄せながら、現れる絵を楽しむかのように食べ始めた。
「ねえ、優名ちゃん」
ミドリが結衣を挟んで向こう側にいる優名に、声をかけた。
「なあに?」
「竜邦にはさ、カフェテリアがあるって聞いたんだけど。パスタもある?」
来たな、と僕は身構えた。ミドリの口から竜邦の名が出た途端、優名のフォークを操る手が止まった。
「どうしたの?」
優名が、カチャン、とフォークを皿の上に置いた。結衣もパスタを口に運ぶ手を止め、優名の方を見た。
「竜邦の話は……したくない」
ミドリに負けず劣らずの名演技だった。……もっとも、言っていることは本音だろうが。
「優名ちゃん、学校、嫌いなの?」
結衣が眉をひそめて聞いた。こちらもなかなかの女優だ。優名が黙って頷くと、主婦たちの視線が一斉に優名に注がれた。
「優名。教えてあげて。カフェテリアのお話くらい、いいじゃない」
美咲が厳しい表情で言った。全員が、手を止めて子供たちのやり取りに聞き入っていた。
「嫌なものは……嫌」
優名がぶんぶんと大きく頭を振った。美咲の顔の陰りが濃くなった。
「ひょっとして、いじめられてるの?」
ミドリが話を膨らませた。優名はまたしても大きく頭を振った。
「学校の雰囲気が、嫌い」
美咲の表情が凍り付いた。まなじりが吊り上がり、頬が痙攣するように小刻みに震えた。
「竜邦って、ほかの学校と違うの?」
ミドリが核心に触れた。優名は小首を傾げ「わかんない」と言った後、「でも」とつけ加えた。
「前に行ってた学校とは、全然違う。前の学校の友達は、一流レストランなんか行かなかったもん。外国に毎年なんか行ってなかったもん」
美咲の両目が大きく見開かれた。唇がわなわなと震え、優名を憤怒の形相で睨み付けた。
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