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1話
彼に出会ったのは2年前。私の勤める会社に、彼が清掃員として来たことがきっかけだった。
彼の第一印象は、ザ・不愛想。
黒縁眼鏡に長めの前髪で目元を隠している彼は、いつ会っても無表情で無口。挨拶は返してくれるけどいつも単語。もちろん笑顔なんてないし、つり目がちなせいでちょっと不機嫌そうに見える。
でも仕事はとても真面目で、彼が掃除をしてくれた所はいつもピカピカだった。
そんな彼と、まさかこんな場所で出会うとは誰も思わなかっただろう。
だって絶対来なさそうだもの。合コンなんて。
うわ~……いつも通りの無表情。そして無口。
多分人数合わせで呼ばれたんだろうな……可哀想に。
そういう私もそれを理由に呼ばれたわけだけど。
でもおかしいな。今日は高収入・高学歴な人とだからって、この子達張り切ってたはずなんだけど……?
申し訳ないけど、清掃員の彼が高収入だとはとても思えないのよね。高学歴かどうかは知らないけど。
他の男性メンバーとどういう繋がりなのかもイマイチ分からない。だってこの人、男同士ですら全然話さないんだもの。
まあ別に、何でもいっか。
出会いを求めて来たわけじゃないんだし。
他の子達は20代半ばの可愛い後輩達だけど、そんな中にポツンと混ざってる私は、29歳アラサー・彼氏いない歴早4年。
それなりに身だしなみには気を付けているけど、悲しいことに彼女達みたいなキラキラした可愛さはとっくの昔に無くしてしまった。
今日は料理を楽しむって決めて来たんだもん。いっぱい食べなきゃ。
気持ちは既に目の前の料理にロックオンしてる。
他の子達の楽しそうな会話をBGMにして一人料理に舌鼓を打っていると、目の前からなにやら視線が。
「えっと……何か?」
「いや……美味そうに食ってるなと」
彼の単語じゃない言葉を初めて聞いた私は、目を瞬く。
「そんなに長く喋れたんですね」
思わずそう言ってしまって、ハッと口を噤んだ。
今のはちょっと酷かったな……
謝るために声をかけようとしたら、彼の隣の席の男性に先を越されてしまった。
「お、なんだ?涼介がこういう所で話すのなんて初めてじゃないか?」
「……」
「お前ね、もうちょっとちゃんとしゃべんねえと、俺達以外には伝わんねえぞ」
「……ほっとけ」
「ったく。こいつ無口で無表情ですけど、そんな悪い奴じゃないんで誤解しないでやって下さいね。俺らの中で一番頭いいし、今は清掃員やってるらしいんですけど実家は……」
「お前もう黙れ」
「痛っ! く~っ……お前、グーはなしだろ、グーは」
……今、脇腹にグーパン入ったよね。
隣の人涙目になってるし。お気の毒に……知られたくない事でも話そうとしたのかな?
また喋らなくなってしまった彼を、今度は私がじっと見つめてみる。
「……何?」
「え?え~っと……あ!」
そこで私はハッとした。最低な事に彼の名前を知らない。最初の自己紹介の時にボソッと言ってはいたんだけど全然覚えてない。彼だけじゃなく、他の人の名前も覚えてないんだけど。
お腹空いて食べる事しか考えて無かったから、上の空だったんだろうな私。いくら人数合わせって言ったって最低極まりない。
「あの、ごめんなさい。お名前……」
「……泉涼介」
「泉さん。あ、私は佐川綾音です」
「……知ってる」
「そうですか……」
まさか覚えていたとは。
他人に興味無さそうに見えて、実はそうじゃないのかな?頭いいって言ってたから、単純に記憶力がいいだけかもしれないけど。
「あの、泉さんはどうして今日合コンに?」
「強制」
なるほど。メンバーに最初から入ってて断れなかった感じかな。
うん、何かそんな気がする。人数合わせで後から誘われたんなら、断ってそうだし。
「泉さんは、どうして清掃のお仕事を?」
「……別に、理由はない」
「じゃあ、掃除スキルはどこで?」
「掃除スキル?」
「泉さんが掃除してくれた所、いつもピカピカですごいなって思ってて。どこで覚えたのかなって。会社で研修とかあるんですか?」
「特に無いけど」
「もしかして独学で?」
「……まあ?」
何故疑問形なんだろうか。自分の事なのに。やっぱりこの人のことがよく分からない。
「……そっちは?」
「え?」
「今日、何で来たの?」
「ああ。私は人数足らないって彼女達に頼まれたので」
「……そう」
反応それだけ!?自分から質問してくれたから、もっと何かあるのかと思ったのに。
でも何でだろう。彼と話すのちょっと面白いかもしれない。
そういえば、何歳なんだろう?見た目は27歳ぐらいかな?年下っぽく見える。
「泉さんっておいくつですか?」
「33」
「年上ですか?!」
「何で驚く……?」
「いや、年下だと思ってて……」
「……佐川さんは?」
「に、29歳です……」
「そう」
うん、今のはそれで終わってくれて良かった。何か言われても、話広げようもないし。
そっか、年上なんだ。ちょっと意外だな。肌とか白くて綺麗だし、若いんだと思ってた。
それからも、私が話しかけるとボソボソと答えてくれはするけど、やっぱり泉さんは基本無口で無表情。
合コンに来ているとはとても思えない不愛想さ全開のまま。
でも、何故か私は彼の事が気になって仕方が無かった。
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