4話

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結局何にもいい案が思い浮かばなかった…… 週の初めだというのに、出勤しながらすでに疲れた顔の私。 何が悲しくて、お見合いを断る方法を考えて疲れなきゃいけないのか。 「あ、泉さん。おはようございます」 社に着いて、やっぱりすぐに見つけた彼に挨拶をする。 いつもならボソッと返ってくる返事が、今日はなかなかこない。 不思議に思って彼を見ると、その目は探るように私を見ていた。 「……何かあった?」 「え?」 「疲れた顔、してる」 え、そんな分かりやすい? 「まあ、ちょっと週末に色々ありまして……」 「……そう」 「お昼休みに話聞いてくれたりします?」 「俺?」 「だめですよね……」 「……いいけど」 「本当ですか? 良かった。じゃあ、この前の所で待ち合わせしましょう」 こうなったら、誰かに聞いてもらって一緒に解決方法を考えてもらうしかない。この時は、単純にそう考えていただけだった。 お昼休みになり、コンビニでご飯を買った私は、芝生を目指して只管突き進んでいく。休憩になってすぐに出たはずなのに、そこにはもう彼が待っていた。 「泉さん、早いですね」 「……」 無言の彼は、前と同じように上着を自分の横のスペースに敷いてくれる。 ……しまった。今日は思い付きで誘っちゃったからな。次からはシートを持って来よう。 そう心で決めて、申し訳なく思いながら上着の上に座らせてもらうことにした。 「で?」 「え?……ああ。何があったかですよね」 コクンと頷く彼は、きちんと話を聞いてくれるようだ。 「実は、週末に実家の母親から電話があったんです。もういい年齢なんだからお見合いしろって」 「……」 「お相手の人は公務員だそうで、将来安泰ですって」 「……」 「もういい年齢ってどういう意味だって感じですよね。人を行き遅れみたいに」 「……するの?」 「したくないから、どうやって断ろうか考えて疲れちゃったんですよ」 「……そう」 ん?何か今、声のトーンが上がらなかった?気のせい? 「お見合いしないなら、彼氏の一人や二人連れてこいって言われちゃって」 「……」 「そんな簡単に出来たら誰も苦労しないって話ですよ、まったく」 「……」 「何かいい方法ないですかねー。もうこうなったら、一日だけ誰か雇って彼氏のふりをしてもらおうかと……」 そこまで言って、ふと隣の泉さんを見る。 一日彼氏、泉さんに頼んだら駄目かな。泉さんなら全く知らない人ってわけでも無いし……でも、嫌がられるかな。 「あの……私の彼氏になってもらえませんか?」 目を見開いて固まる彼に、私は頭を下げる。 「一日だけでいいんです。実家にいる間だけで」 「それは……」 「……ダメですか?」 「ダメっていうか……」 「お願いします。頼れるの、泉さんしか居ないんです」 「……分かった」 「ありがとうございます……!」 泉さんは、根負けしたようにため息をつきながらも了承してくれた。 こうして今週末、私の実家へ泉さんを連れての一日帰省が決まったのだった。
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