第四話 見えない真実と過去の罪

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 俺はすぐに中庭から目をそらし、一呼吸つく。先ほど見た光景をもう一度脳内で再生してみたが、どう考えてもカツアゲにしか見えなかった。渡したものが何なのか、それが分からないので何とも言えないが。  俺はギュッと目をつぶる。拳は無意識に固く握られていた。いじめ、本当にいじめなんだろうか。もし、もし本当だったら? 俺は……。  とりあえず今見たことは保留にし、俺は図書室に向かった。本当にいじめなら、事は繊細だ。やみくもに突っ込んでいい問題ではない。  図書室につくと俺はいつもの席に座った。目の前には夏目がいる。今日は勉強中、何かのプリントをやっていた。そんな彼女の顔が上がり、じっと俺を見つめてきた。 「な、何かありました?」 「どうして?」 「ちょっと、怖い顔してます」 「……そう? 別になんもないけど」 「そう、ですか」  それ以上夏目は問いかけてはこなかった。俺は自然体を装い、彼女から顔をそむける。夏目の前では隠し事はほぼ出来ない。分かってはいたが、このことを話すわけにはいかない。彼女に出来ることなど何もなし、関わらせたくもなかった。 「あ、日野くんちょうどよかった~。ヒマならゴミ、捨ててきてくれない?」  能天気な声が降ってきたと思えば塚本先輩だった。その天真爛漫な笑顔を見ると悩んでいることがアホらしくなってくる。俺は呆れ顔を浮かべながらも重い腰を上げた。 「ゴミ捨てっすね、別にいいですよ」 「本当? ありがとう。重いから男手を探してたんだぁ。ああ、助かったぁ」  そう言って渡してきたのは新聞紙の束だった。確かにこれは重い。しかし持った瞬間新聞の束が崩れた。どうやら結びが甘かったらしい。バラバラになった新聞を見て思わずため息が出る。 「先輩……」 「ご、ごめん。ほら私、女の子だし、力が弱いからさ。日野くんが結び直してよ」 「はぁ? まじっすか? 俺も苦手なんっすよねぇ、新聞束ねるの。うち、新聞取ってねぇし、やる機会がそもそもねぇし」  ぶつくさ文句を言いながらも、先輩から荷造りひもを受け取り結び直す。他にも結びが甘いものがあったのでそれらも直して、俺はゴミ捨て場に向かった。
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