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先輩のつらい過去、上手いことを言えればいいのだが、俺にはそんな学も言葉も無い。だからこそ真剣に考えて、慰めとも言えない、それでも頑張ってひねり出した言葉を俺は口にする。
「浅く広い関係、上等だと思います。八方美人だって、上等っすよ。誰だって傷つきたくないんですから。八方ブスよりかは全然良いと思います。そんな過去があっても、先輩は人と関わろうとしてるんだから、全然臆病なんかじゃないですよ」
「日野くん……」
「それに欠点の無い人間なんていないと思うんっすよね。完璧な人間なんていない。いたらそれはもう人間じゃなくて、ロボットじゃないっすか」
「日野くんにも欠点あるの?」
「見たらわかるでしょ、欠点だらけっすよ。それに俺の方が臆病です」
「そうなの?」
「見て分かりません?」
俺はそう言って天井を見上げた。間欠泉のように感情が噴き出さないように、重力で蓋をする。気が緩めば渦巻く感情が飛び出てしまいそうだった。自分自身のふがいなさ、罪悪感、後悔や孤独、喉をきゅっと絞めてないと叫びたくなってしまう。
先輩も俺の横でうつむいたままだ。同じように、思い出したくない過去に耐えている。その彼女がぽつりと漏らす。
「そうか……。だから、私はこんなこと話しちゃったのかな? 屈折してると言うか、悩んでいるというか。きみに同じ匂いを感じちゃったのかも」
「同じ匂いって……」
「迷惑だった?」
「つまり、変わり者同士っていう事でしょ。いいんじゃないっすか」
そう言って笑い合う俺たち。
欠点の無い人間なんていない。みんな何かしら持っているもので、それと同じように良いところ、長所も持っている。みんな違ってみんな良い、なんて言葉があるがそうなんだろう。
では、俺はどうなんだろうか。ざっと考えても欠点しか見つからない。不良姿で自己中心的で嘘つきで……。良いところなど何一つ思い付かない。
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