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第三話 消えた絵画と消えない友情
1
俺の学校の玄関には絵が飾られている。
その絵は美術部が描いたもので、季節ごとに取り換えられる。
飾られるのは美術部の中でも評価の良い作品で、毎回顧問の先生が選んでいるそうだ。よって、選ばれることは、部員にしてみれば結構名誉なことらしい。
今は梅雨時なのでアジサイの絵と波紋を描いた抽象画が飾られていた。
朝早く登校した俺は二枚並ぶその絵をじっと見つめていた。
絵に関しては素人なので、かっこいい感想などは言えないが、とにかくきれいな絵だと思う。アジサイは淡い色合いと細かな描写、梅雨空のもとしっかりと花咲かすアジサイの生命力を感じる。一方波紋の方は青色で描かれているのだが、青にもいろんな青があることを教えてくれた。梅雨らしいしっとりとした絵で、じっと見ていると心が落ち着いていく。
――あぁ、本当に良かった……。
この二枚の絵が並ぶまでにいろんなことが起こった。だから余計に感慨深いものがある。
しみじみと絵を眺めていると、次第に玄関外が騒がしくなってきた。生徒たちが登校してきたのだろう。俺もその流れに乗って自分の教室へと歩き出す。
頭の中に焼き付いた二枚の絵。美しくもしっとりとした哀愁を漂わせる絵。
思い起こされるのは一週間前に起きた、ある事件のことだった。
六月に入り、梅雨の気配を感じ始める頃、俺は久しぶりに友人と一緒に登校していた。その友人とはもちろん桐島達也のことだ。
仲直りというか、わだかまりをとりあえず解消出来た俺たちは、また昔と同じような関係に戻った。しかし中学二年生ごろから疎遠だったためか、多少のぎこちなさが漂っているのは仕方がないことだろう。
「達也とこうやって一緒に登校するのって小学生以来だよな」
「そうだなぁ。話したいことは山ほどあるはずなのに、何を話していいか分からなくなるな」
「なんかそれ、付き合いたてのカップルみたいなんだけど」
「やめろ。俺はそっち系じゃない」
「俺もだよ!」
馬鹿なことを話しながら学校へと向かう。
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