鈴の音の代償

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宗介は何度も時計を確認していた。 あと少しで帰れる。約束の時間まではまだあるが、大学が終わっているであろう葵は既に待っているかもしれない。 「宗介、どうかしたか?」 いつもの宗介らしからぬ落ち着きの無い様子に、上司が不思議そうに問掛ける。 「あっ、いえ…なんでもないです。」 少し落ち着こうと深呼吸をする宗介に首を傾げながら、上司はデスクの上のストラップに目をとめた。 「お前こんなもの持ってたか?」 「あぁ、これは…お守りみたいなものです。」 小さな鈴の着いたストラップを手に取り、宗介は優しく微笑む。 前に葵と行ったデパートの路上で売っていたハンドメイド物だ。もっといいものを贈ると言ったのだが、葵は「世界で2つしかないものだから」とこの安物のストラップを欲しがった。 普段は仕事で無くすといけないので、デスクの引き出しにしまっていた。もちろんこれも持っていく。 宗介が帰り支度を終えるのと、慌てた様子の新人が部屋の扉から飛び込んでくるのとはほぼ同時だった。 「〇〇区で事件です!!」 その声に周りで雑務をこなしていた同僚たちが次々にジャケットを羽織って部屋を出ていく。宗介は軽く舌打ちすると時計を見た。この分だと何時に帰れるか分からない。葵に連絡を入れようかとスマホを取り出したところで上司から声を掛けられた。 「宗介!何してる、早く来い!」 「っ、はい!」 宗介はスマホを戻して、咄嗟に掴んだストラップをポケットにしまった。
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