鈴の音の代償

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「今日の19時にいつもの喫茶店で。」 互いに約束を交わしたあと、宗介(そうすけ)は大学へと向かう(あおい)を見送った。葵の姿が見えなくなると宗介は短く息を吐いて、自身も仕事へと向かった。 彼らは今日、大きな罪を犯すのだ。 2人が出会ったのは半年ほど前のことだ。 敵が多いことで有名な資産家の屋敷の警備として、警察の中でも優秀な宗介が選ばれた。彼は出世街道を歩くいわゆるエリートと言うやつで、普段こういった類の仕事はしないのだが「コネは最大の武器」だとこの仕事を宗介に受けさせたのは、警察の上層部に身を置く父だった。 宗介自身エリートということを鼻にかけたことはなく、この仕事を受けることになんら支障はなかった。そして、その屋敷に居たのが資産家の息子である葵だった。敵の多い父とは違い、擦れた様子もなく人当たりのいい好青年だった葵は、仕事で来ているだけの宗介達にも優しく接してくれた。宗介も決して自分に驕らず真摯な仕事ぶりを見せた。 そんな2人が惹かれ合うのに時間はかからなかった。 警備の仕事が終わった後も、2人は時間を見つけては会うようになった。宗介の最寄り駅と葵の大学の近くにある喫茶店で、何をするでもなくただ他愛ない会話をするだけだったが、それだけでも十分に幸せだった。 男同士で、互いに家の存在の大きい2人の関係を認めてくれる者など誰もいないのだ。 しかし、そんな生活も長くは続かず、頻繁に家を空けるようになった葵を不審がった屋敷の人間が葵の父に知らせてしまったことで、葵は容易に外出することが出来なくなってしまった。幸い、相手が宗介だということはバレてはいなかったが、このままでは会うことすらままならない。2人は悩んだ挙句、ある決断をした。 "駆け落ちしよう"
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