Sweet memories

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 午後五時丁度。防災無線から、前兆のようにざわざわと雑音が数秒流れると、続いて声高に、夕焼け小焼けが辺りに響き渡った。  夏も終わりの筈なのに、日本特有のじめじめとした暑さが体にまとわりつく。再会を期待していた私に、落胆が主張し始める。迫りくる夕刻が諦めろと、私に囁いてくる。 「来なかったね」  そう、傍らにいる恋人にぼそりと呟と、彼は何も言わず曖昧な表情で私を一瞥した。そうしている間に夕焼け小焼けは終わってしまう。それは、遠い昔の約束に終わりを告げる合図で、いよいよ私は無力感のような気怠さに捕まる。  二十年後の八月三十一日、午後五時。  幼い私と友人との、再会話は、ここで幕を落とした。
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