Sweet memories

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 話の発端は、恋人、カズアキの一言だった。  週末の夜。夕食用のキャベツの千切りを終えると、カズアキはソファーから身を乗り出し、視線をテレビから私に向けた。 「ねえ」 「今日はピーマンの肉詰め」  最後まで聞かず、私は答える。材料を切り終えたタイミング。彼はいつもここで今日の献立を確認する。 「いや、違くてさ」  ピーマンという単語に表情を顰めながらも、カズアキは言葉を続ける。彼がピーマン嫌いなことは知っているが、今日の特売品だから仕方ない。夏の献立は、どうしても夏野菜に偏ってしまう。  入社同期三年。付き合い始めて二年。同棲を始めて一年。大体のことは何となくわかるようになった。 「ヒカルって、幼馴染とかいる?」  予想だにしない質問に、私は手にしていたピーマンをまな板の上においた。そう言えばそんなことは話題にしたことがなかったな。何となく分かっていると思っているということは、ちゃんとは分かっていないということなのかもしれない。 「なんで急に……」  疑問符を頭に浮かべながら彼の向こう、テレビ画面に目線を移すと、そこには人探し企画のバライティが流れていた。芸能人の旧友とか恩人を探し出して、二人の関係性をネタに笑いとか涙を誘おうという番組。今回は、離れ離れになった幼馴染を探している。  カズアキは単純な人だ。人に言われたことにすぐ間に受けたりする。私なんかは、どうせ仕込みだろうと思ってしまうようなこういうテレビ番組も、作り手の狙い通りに喜んだり悲しんだりする。 「いたよ」  私は再びピーマンに向き合いながら、この判り易い恋人の疑問に回答した。 「へぇ。どんな子なの?」  カズアキは更に体を乗り出し、私に新たな疑問をぶつける。彼の本日の興味は、テレビ番組から私の幼馴染に変わったらしい。 「ちょっと待って。夕飯食べながら話すよ」  話の続きを待つ彼を制し、取り敢えず私はひき肉をピーマンに詰め始めた。
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