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画面の中では、ジャック オー ランタンがナビゲーションをしながら怪しげな古城やお化け屋敷などを回り“トリック オア トリート”と言いながらドアから出てきたお題に応えていくようだった。
このジャックオーランタンは何も話さないがナレーションの男の声が正しく先程玄関で聞いた声。
さほど気にも止めていなさそうな尚之はナビゲーションに合わせてリモコンを連打し、開けたドアから現れた妖怪を倒したり、時にはダンスを踊ったり透の前で必死になって遊び始めた。
それに見惚れながら、今更だが尚之の知らない部分を垣間見て呆然としてしまう。
ゲームをしていたことは何度か見かけたから知っている。だがコスプレまでするとは思わなかった。
尚之のどこにそんな意外性を隠していたのか。まだ知らない部分があるのなら見てみたいとワクワクする反面、今までもこんな風に一人で遊んでいたんじゃないかと思い耽った。
一人にさせて他の誰かに人肌を求めなかったこと。家の中で一人コスプレして踊り、甘い声の男と笑い合っていたって浮気などとは到底思ってはいない。
ハロウィンだからと、この様で“トリック オア トリート”と叫びながら街中を歩いた訳でもないのだから。
ただ一人。家の中でコスプレをしハロウィンゲームで遊んでいる尚之はこの後…ゲームが終わった後、一人寂しく衣装を脱いでシャワーを浴びベッドに入るんだろう。
イベントや季節を感じ楽しむ尚之が、ここで一人こうやってひっそりと楽しんでいたのかと思うと胸を締め付ける。もしかしたら透がいないからこそ派手にハロウィンを楽しんでいるのではないのかとさえ思えてしまう。寂しさを紛らわそうと…
それにしても…そのダンスは悩ましい。尻に大きな丸い尻尾を付け、前に屈んだり突き出したりと深くカットされたレオタードは、際どい足の内側の付け根まで露わにしている。足を絡ませ尻を突き出す姿は何とも妖艶で堪らない。
すると音が切れ、エンディングを迎えたのだと知る。
ヨガマットの上に立ち尽くした尚之は視線だけをこちらに向けてモジモジとしながら透の言葉を待っている。
可愛く妖しげな尚之に充られた透は、その表情をくみ取るのに数秒かかった。
「尚之…おいで」
そう言ってやると華が咲いたような笑顔を向け、透の膝元に座り込んだ。
そっと頬を撫でてやると擦り寄るように掌に頬を寄せる。その仕草に愛おしさが溢れ出す。
「…こんな格好で…俺がいない間に色っぽくなってる尚之が許せないな…尚之は誰のモノ?」
そう聞けば、見上げた尚之は唇を噛み、扇情的な表情で透の瞳を見つめた。
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