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尚之…やはり五年も離れていたら心変わりしてしまったんだろうか…
どんなに愛していても、愛の言葉を囁いても、同じ空間で時を共有しないと気持ちは離れていってしまうのか。
尚之の気持ちを疑ったことなどなかった。言葉は少なくても愛してくれていると思っていた。
尚之の寂しさを埋めてやれるのは、遠くにいる恋人より近くにいる他人なのか…
何故、あの時転勤を受けたのか。この年になれば免れない転勤と本社に戻る時のポスト。この先尚之と二人、何不自由なく暮らせる経済力をつけたかった。
今より未来を夢見た俺の判断は間違っていたのか。
それでも。
ここは俺たちの家だと意を決して、リビングに繋がる取手を握りしめ、勢いよくドアを開けた。
そこには…
可愛い兎の耳を付け、細くて長い足は黒い網目に覆われている。
際どいところまでカットされたビキニライン、身体のラインにフィットしたレオタード。
色っぽいバニーガール姿の尚之が笑い顔を凍らせてこちらを見た。
誰かと過ごす深夜、尚之は見たことのない出で立ちでハロウィンを楽しんでいる。
それが悔しくて悲しく、サプライズを企てドラキュラに扮した自分が滑稽で、湧いてくる苛立ちに部屋をぐるりと見回した。
「と、透さん…」
引き攣った表情で透を見つめる尚之は、我に帰ったのか顔を真っ赤に染め細い腕で身体を隠そうとしている。
「尚之…どういうことか説明して…」
情けない声で責めることも出来ない自分は尚之を愛している。
理由を聞くまでは…そんな悠長なことを言っている場合ではないことはわかっている。
わかってはいるが…
「…ごめんなさい…」
尚之のその言葉で堰を切ったように溢れてくる感情に駆け寄り抱きしめずにはいられなかった。
寂しくさせたのは自分。他の誰かの温もりを求めさせたのは自分だと、怒りよりも申し訳ない感情が溢れてくる。
「ごめん…尚之」
ただ謝ることしか出来ない情けない自分に、透は細い身体を強く抱きしめることしか出来なかった。
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