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透がこの状況を把握と懺悔をしている様子を、耳まで染めた尚之は久しぶりに逢えた透から目が離せないでいた。
透に触れるのは何カ月ぶりだろうか。忙しく過ごしている透の様子に寂しいとは言えず、その合間に送られてくる愛の言葉が堪らなく嬉しく、一日のほんの少しでも自分のことを考えてくれていることが嬉しかった。
それに今日はハロウィン。イベント事に疎い透が尚之と出逢ってから合わせてくれていることは知っている。優しい透のことだハロウィンの為に衣装を準備しどこかで着替え帰ってきてくれたことが堪らなく嬉しかった。
愛されている。見惚れるくらい容姿端麗な透が自分を選んでくれたことも愛してくれることも奇跡に近い。
見返りを求めない無償の愛情をこの八年注がれてきた。言葉が足りず想いを伝えることの下手な尚之を何も求めず愛してくれている。
幸せを運んで来てくれた透を愛していることは付き合い始めてから変わってはいない。
夢中になる、虜になっていると尚之は自負している。
「透さん…僕の為にコスプレしてくれたんですか…?」
覆ったマントの先を持ち上げ、嬉しそうに笑う尚之に見惚れる。誰のために。そう、尚之のこの顔が見たくて興味なんてほぼ無いコスプレをしている。
「ドラキュラ…カッコいいです…透さん似合ってる」
素材を確認するかのように持ち上げたり広げたり楽しそうな尚之に目を細める。玄関で外した牙をポケットから取り出し付けて見れば一段と眩しい笑顔を見せてくれた。
「こんなカッコいいドラキュラなら襲われてもいいかな…」
そんなバニー姿で誘う尚之ならドラキュラでなくても襲いたくなる。細い足に網タイツ、身体のラインが浮き出るレオタード、胸元はカップが付いているんだろう無い胸に膨らみがあり妙に色気を振り撒いている。
「…トリック・オア・トリート…お菓子をくれなきゃ…襲っちゃうよ」
安堵からの緩みなのか、久しぶりに触れた尚之がこんなコスチュームで出迎えてくれるとは思ってもいなかった透は、アクシデントがあったにしろ正気を取り戻し、ハロウィンお決まりの科白をさっきの男のように、声色を変え呟いた。
見上げる尚之は胸元まで肌を赤く染め、潤んだ瞳で透の首元に腕を巻きつけた。
「…お菓子…ないから…襲ってください…」
決まり文句を大きく間違えていることには敢えて触れない。久しぶりに触れた愛しい人を求めてしまうのはお互い同じ気持ちなのだとわかっているからだ。
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