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「はい……本当にすいません。はい……はい……すいません……」
結局、俺と咲間さんが聡太郎さん達に合流する事はなかった。
咲間さんに見惚れている内に、いつのまにか花火大会は終わっていて、ぞろぞろと流れて来る人波に逆らう事も出来ず……
震える手で携帯画面を確認してから、覚悟を決めて聡太郎さんに電話をした。
案の定しっかりとお説教をくらい、見えていないとわかっていても頭を下げずにはいられなかった。
「もうわかった。もういい。」と半ば呆れられるくらいに謝ってから、咲間さんに携帯を手渡す。咲間さんは笑いながら、ごめんね。と軽く謝ってすぐに電話を切った。
「あの……大丈夫ですかね? まだ怒ってるかもしれませんし、今からでも行った方が……」
「大丈夫だよ。」
「本当ですか? 許してくれてました?」
「それはわからない。あれこれうるさいから、途中で切っちゃった。」
マジか。嘘だろ……と思いながらも、余りのことに声にはならなかった。
「ふっ……凄い顔してるよ。大丈夫だって。また後で謝っておくから。」
「……はい。」
「じゃぁ、帰ろっか。」
「はい。」
歩き出す咲間さんの後を追って肩を並べる。
勢い余ってぶつかった手を、咲間さんが掴む。
「え……?」
「ん?」
「いえ、何でもないです。」
掴まれた手を、俺はしっかりと握り返した。
いつか、こうして手を繋ぐ事が当たり前になるのだろうか。
些細な事に胸が痛む事もなくなるのだろうか。
そう思うとそれはそれで少し寂しいような、嬉しいような、不思議な気持ちになった。
だけど、きっと変わらない事もある。
「ねぇひなくん、帰ったら触ってもいい?」
「あぁ、はい。歯ですね。」
「……歯〝も〟何だけど。」
「も ………? ……えっ?! ぇえっ!!?」
「ダメかな?」
柔らかな優しい声と、
今にも蕩けてしまいそうな甘い笑顔。
「……ダメ……じゃ、ないです……」
俺はこれからも、この先もずっと
この笑顔には抗えない。
誰よりも愛おしい、あなたの笑顔に
どうしたって、抗えないのだ。
fin
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