2 八の掟

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「あの、咲間さん……」 背中からひなくんの声がする。 ごめん。もう少しだけ待って欲しい。もう少しだけ浸らせてくれ…… 「……咲間さん?」 「あぁ、ごめん。えっと、もう大丈夫?」 「はい。すいません……何だか急に吐き気がして……」 「謝るのは僕の方だよ。ひなくんが気持ち悪くなったのは僕のせいなんだ。歯磨きをしている途中にひなくんがまた眠ってしまって、でも口は開いていたから歯を触っていたんだ。もしかしたら、指を奥まで入れ過ぎていたのかもしれない。ごめんね。」 「はぁ……いえ。俺の方こそまた寝ちゃってすいません。」 ひなくんは申し訳なさそうにそう言って、頭を下げた。 謝るのは僕の方だって言っているのに。 色々な罪悪感が胸の中を埋め尽くした。 やっぱり、こんな事はもうやめた方がいいのかもしれない…… 「じゃぁ、帰ります。」 「うん。これ、昨日と今日のアルバイト代。」 「そんな……昨日は途中で寝てしまったし、今日は昨日の続きだったので1日分でいいです! 今日だって結局また眠ってしまった上にあんな醜態まで晒してしまって……本当にすいませんでした。」 「いいんだよそんな事。それより……もしひなくんが嫌なら……」 「えっと、次はいつ来たらいいですか?」 「え?……また来てくれるの?」 「はい。次は眠らないよう、あんな事にならないように気を付けます。ちゃんと出来るかわかりませんが、咲間さんが最後までしたい事を出来るように頑張りたいです。」 真っ直ぐな瞳でそう言う彼の姿を見て、胸が一杯になった。 今度は罪悪感じゃなくて、幸福感と感動で胸の中が満たされていた。
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