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「都合の良い日があればここに入れておいて。僕のスケジュールと照らし合わせて、アルバイトの日と時間を連絡するから。」
帰り際、電話番号を交換した後で、お互いのスケジュールを共有できるアプリに登録した。
咲間さんはとても嬉しそうで、その笑顔を見ていたら、なんだか俺まで嬉しい気持ちになっていた。
正直不安はある。また吐き気に見舞われたらどうしようとか、こんなおかしな仕事を続けていいのだろうかとか。
けれど、それより何より興味が勝ってしまったのだ。
この非日常な出来事に。
歯に異常性欲を感じるこの人タラシに。
俺はただ純粋に、咲間さんという人間に惹かれていた。
「えっ?!!!!!」
エレベーターの中で、貰ったアルバイト代を確認して思わず声が出てしまった。
「ろ、6万って……嘘だろ……」
彼の示した三本指は、俺が思っていた金額にゼロがひとつ増えたものだったのだ。
「マジかよ……」
こんなに貰っていいのか? こういうものなのか?
俺の歯にこの金額を払う価値があるとは到底思えない。というか、1回1時間、ただ歯を触るという行為に3万円をポンと払えてしまう咲間さんはやはり俺とは住む世界の違う人間だ。
俺は静かに大金の入った封筒をジーンズのポケットに押し込んだ。
心臓がドクドクと忙しなく音を鳴らしている。
俺はとんでもないセカイに足を踏み入れてしまったのかもしれない。
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