3 必要とされること

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「ひなくん、夕飯まだだよね? 」 「え? あ、はい。」 「良かった。一緒に食べようと思って、2人分お願いしていたんだ。今日は肉じゃがだって。里村さんの一番の得意料理だから期待していてね。」 玄関に入って直ぐに咲間さんは嬉しそうにそう言った。 俺は遠慮がちに言葉を返した後で、不意に彼の足下を見やった。左右で違う靴下を履いている。それも見分けが付かないものなら間違う事もあるのかもしれないけれど、ピンストライプの入ったネイビーの靴下とロゴの入った真っ黒な靴下を履き間違える事は中々ないと思う。 やっぱり、相当疲れているんじゃないだろうか。 初めて会った時と同じように、「用意してくるから座って待ってて。」と言ってキッチンに向かう咲間さんの腕を掴んだ。 「あの、俺がやります。」 「え? でも……」 「温め直すくらいは俺にも出来ますから。咲間さんは座って待っていて下さい。でもその前に着替えてきたらどうですか? 」 「いいの? ありがとう。じゃぁお言葉に甘える事にするよ。」 ベッドルームに向かう咲間さんの背中を見送って、ほっと胸を撫で下ろした。 温め直すくらいは出来る…… そう言ってみたものの、普段全く料理をしない俺は少しだけ戸惑っていた。 鍋いっぱいに作られた肉じゃがをジッと見つめてから、ゆっくりと息を吐く。 取り分けてレンジで温めて直すべきか、鍋事いっぺんに温め直すべきか…… 鍋を見つめ、にらめっこ状態の俺の視界に大理石で出来たカウンターの上にメモが置いてあるのが映った。 達筆な文字で書かれたそれを、呟くように声に出して読んでみる。 「今日の献立。肉じゃが、うすあげと小松菜のお浸し、人参とごぼうのきんぴら(人参は苦手でしょうが少しくらいは食べてくださいね。)、五穀ご飯、お麩と三つ葉のお吸い物。 肉じゃがは必要な分だけ取り分けてレンジで温め直して下さい。温め過ぎに注意! お吸い物はお鍋事温めてください。こちらも温め過ぎに注意! お浸しときんぴらは冷蔵庫の中に入っております。 もしもわからない事があればお電話下さいませ。 里村 」 恐ろしく丁寧な説明だ。俺も料理は大概何も出来ないけれど、このメモを見る限り咲間さんもきっと俺と同じようなものなのだろう。
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