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東京で一人暮らしを始めた頃、母親から送られてきた段ボールいっぱいの食品やタッパーに入った手作りのおかず、そのタッパーの上に貼られていたメモを思い出し、なんだか温かい気持ちになって笑みが零れた。
里村さんのメモの通りに夕飯の準備を進めていく。
ご丁寧に使うお皿や茶碗まで用意されている。深皿を手に取り、肉じゃがの鍋の蓋を開けた。
「咲間さんてどれくらい食べるんだろう……」
流石にそこまでメモには書いていない。
だいたいの量ってどれくらいだ?
俺と同じくらいで大丈夫なのだろうか?
もしも俺が家政婦さんだったら、一日中かけても夕飯の準備ひとつすら終わらせる事もできないかもしれない。
日々、当たり前のように家事をこなしていた母親にも改めて感謝の気持ちを伝えたい気分になった。
ひとつひとつの作業に、知識と相手を思いやる感情がこんなにも必要なのだと思い知ったから。
「ひなくん、大丈夫?」
「あ、すいません……もう少し時間がかかりそうです。」
「僕も手伝うよ。」
スーツ姿からラフな部屋着に着替えた咲間さんと一緒に、〝 ただ温め直すだけの夕飯 〟に30分以上かけてようやく食事の準備を終えた。
こんな事を言うのも何だけれど、咲間さんは俺以上にポンコツだった。
仕事が出来て、格好良くて、人をタラシこむキラースマイルの持ち主で……正直、非の打ち所がないスーパーマンだと思っていた。
けれど里村さんも言っていたように、家の中では本当にダメ人間なのかもしれない。
そう思うと何だかおかしくて、妙にほっとして、自然と笑みが溢れていた。
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