3 必要とされること

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「っっ……うぁっ……」 耳が痛い!!! ソファーから飛び起きて慌てて両耳を押さえた。 忘れていた……この爆音の目覚ましを!!! 両耳をしっかりと押さえたまま、よろよろと咲間さんの元へ向かう。 高校生の頃初めてライブハウスに行った時、心臓にダイレクトに響くような音に驚いた事があるけれど、正直そんなものは比ではない。というか、明らかに人体に影響を及ぼすレベルの爆音だ。 ベッドルームの扉を肩で押し開き、ベッドの上で微動だにしない咲間さんを見やる。 良かった……顔色が良くなっているし、熱も下がっているかもしれない。 額に触れて確かめたいけれど今は両手が使えないし、気軽に触れる事にも躊躇いを覚えていた。 安堵したのも束の間、昨夜の事を思い出しゆっくりと溜息を吐き出す。 昨夜は殆ど眠れなかった。こたろーだか、コタローだかの事を考え過ぎてしまっていたから。考えたところで何の情報もないコタローについて何一つわかる事などないというのに、とにかく気になって仕方がなかった。 咲間さんにあんな表情をさせるのは、一体どんな人なんだろうと。 もう一度息を吐いて、咲間さんにゆっくりと近付く。心の中はモヤモヤが増すばかりだ。 いっそのこと、このままずっと可愛い寝顔を見ていたいけど、そんな事をしていたら俺の耳がどうにかなってしまう。 両手は耳を塞いでいるから、肘で遠慮がちに布団の上を突く……って、そんな事くらいじゃ起きない事を知っているんだった! 歯を噛み締めて息を止め、恐る恐る両耳から手を離した。 「ゔっっ……」 爆音が耳を貫く。後は時間との勝負だ。病人を叩き起こす事など本当はしたくないけれど、このままでは耳が潰れてしまう。咲間さんの耳だって心配だ。 「咲間さん……起きて……起きて下さい……」 声を出したって無意味だってわかっているけれど、そこは気持ちの問題というか、出した方が伝わる気がして。 布団を揺すって、とにかく揺すって…… 揺すり続けた。 それなのに…… 起きない。 マジかよ……この人の耳はどうなっているんだ…… 「あ……」 不意に思いついた事に胸の奥がチクリと痛んだ。 仕方がない……やってみるしかない。 ふぅと息を吐いて、そっと咲間さんの頬に触れた。昨夜みたいに。 柔らかな感触に胸がキュッとなる。不思議と爆音が一瞬だけ鳴り止んだ気がした。 咲間さんの目がゆっくりと開き始め、まだ開ききらない覚束ない目で俺を見やった。 その目……堪らないです。 なんて思っている暇はないのだ。とにかくこの爆音を止めてもらわなければいけない。 きょろきょろと辺りを見渡し、ベッドの下に落ちていた携帯を見つけて咲間さんに急いで手渡した。必死な形相で訴える俺に、咲間さんは「あぁ、ごめんね。」と言って(聞こえないけど多分そう言った!)ふにゃりと笑った。 くそぅ。可愛い……そしてかっこいい。 寝癖のついた髪とか、薄っすらと生えている髭とか、何でそんなにセクシーなんですか? おい、待てよ……さっきまでのモヤモヤはどこにいった? あぁ、俺って本当……ちょろい。 悲しいくらいに。
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