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ようやく爆音から解放された俺は、まだ耳に残るハードロックに苦笑いしつつ、咲間さんを見やった。
「おはようございます。身体の具合はどうですか?」
「おはよう、ひなくん。ごめんね。昨夜僕は倒れたんだよね。」
「はい。高熱を出して。」
「そうか……またやっちゃったなー。」
そう言って咲間さんは、気まづそうに寝癖まみれの頭をかいた後で、今度は申し訳なさそうに手を合わせた。
「本当にごめんね!ひなくんのおかげで助かったよ。」
「いえ、俺は何も。咲間さんが倒れてパニクっちゃって……どうしたらいいのかわからなくなって里村さんに連絡したらすぐに飛んできてくれて、必要な事は全部してくれました。だから本当に俺は何もしていないんです。
里村さん、凄く心配していたから連絡してあげて下さいね。」
「わかった。すぐに連絡するよ。迷惑かけてごめんね。」
ごめんね。って言うの3回目だ。そんなに謝らなくたっていいのに。
俺は何もしていないって言っているのに。
申し訳なさそうな咲間さんに俺は何て言えばいいのかわからず、ただぎこちない笑みを返す事しか出来なかった。
コタローにはこんな風に何度も謝ったりしないんだろうな……もっと甘えたり、頼ったりするんだろうな……
なんて、誰かもわからない人物に嫉妬してどうするんだ。
あーあ。モヤモヤ再び。
「ひなくん、少しだけ待っていてくれる? シャワーを浴びてきてもいいかな?」
「服がびしょ濡れなんだ。」と少し恥ずかしそうに笑う咲間さんを見て、また胸の奥がキュッと締め付けられた。
もう何の痛みなのかよくわからない。
だからモヤモヤしたって、嫉妬なんてしたって仕方がない。
コタローの事なんて考えている時間が無駄だ!
俺は俺の出来ることを考えよう。
「あの、咲間さん! もし良かったら……」
実は俺、特技があるんです。って言える程の事ではないのかもしれないけれど。
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